なぜ面白いのか

見たもの触れたものを保存しておく場所。映画、ドラマ、ゲーム、書籍の感想や考察。

ワインに始まりワインに終わる「刑事コロンボ/別れのワイン」感想

Hulu が再び使えるようになり、さっそく「刑事コロンボ」の続きを見ている。

「別れのワイン」はとても印象深いエピソードだった。これまでにわたしが見た中では暫定一位である。

 

 

イタリア系でイギリス出身のアメリカ人

今回の犯人、カッシーニが印象的なのは、まずその出自からくる話し方や所作の特徴だ。

カッシーニ」という名前からもわかるように彼はイタリア系で、同じくイタリア系のコロンボは最初から同族意識を持って接することになる。

「イタリア系は協力し合わなきゃ」というセリフは印象的。別の話では「イタリア系はみんなマフィアだと思われてる」というイタリア系医者のセリフもあったし、この時代のイタリア系アメリカ人の立場が少しだけうかがえる(「ゴッドファーザー」人気でイタリア系へのイメージが固定化してしまったのもあるかも)。

 

どういうわけか、カッシーニはイギリス英語を話す。

Top Gear で英語を学んだわたしは、イギリス英語はある程度聞き取れるが、アメリカ英語はかなり集中していないと聞き取れない。ここ数年アメドラを見まくったおかげでアメリカ英語も少しずつわかるようになってきたが、それでもイギリス英語の方がずっと聞き取りやすい。

そんなわけで、カッシーニが出てきた途端に「あれ!? セリフが聞き取れるぞ!」と驚いたのだが、話が進むと彼がイギリス出身だったことが判明し、別にわたしのリスニング力がレベルアップしたわけではなかったとわかったのである。

しかし言葉づかいが違うというだけで、もうほかの犯人とは印象が全然変わる。

刑事コロンボ」の犯人は全体的に紳士的な人物が多いが、ひときわ「ジェントルマン」である。

(旧TGファンは「ジェントルマン」という単語だけで卑猥な想像をしがちだが、ここでは素直にとっていただきたい)

 

ワインへの愛のために殺しワインへの愛のために捕まる

自分の愛するワイン酒造を残すためという動機で殺人に及んだカッシーニ

逮捕の決め手も、彼のワイン愛ゆえのものだった。

正直に言えば、カッシーニレベルの舌がなければ違いがわからないほどの損傷であれば、黙っていればいいのにと思わなくもない。

あれだけ情熱を持って集めたワインを捨ててしまうことはなかったのに、と。

だがそれができる彼なら、そもそも殺人には及ばなかっただろう。

彼は完璧に近づくために努力を惜しむ人ではなかった。理想からはずれるものには一切の価値を認めない人だった。自分のせいで台無しになった価値あるワインたちを手元に置いておくことなど許せなかったに違いない。

このように犯行の動機と逮捕のきっかけが一本の線でつながった話はそれだけで面白いし、話の構成として美しいと思う。

 

ただし、ここまでワインを愛する人が、ワインケラーを殺人現場(というかむしろ凶器)にするか? という疑問はある。

わたしなら自分の大切なものと死体を一緒に置いておきたくない。

結果として大切なワインを全部台無しにしてしまい、そこから犯行が発覚したわけで。

あとみんなかなり普通に飲酒運転をしているのだが、この時代はまだあまり問題にならなかったということだろうか。

 

一瞬ぞっとしたカッシーニ

犯行現場に戻ってリックが酸欠で死んでいることを確かめたカッシーニの、一瞬ぞっとした表情が印象的だった。あの表情で「まさか」と思ったが、そのまさかだった。

カッシーニが犯行現場を去る前、リックは普通に床に倒れていたはず。しかし戻ってみると、死体は頭にかごをかぶっていたのである。

事故で窒息死した遺体がみんなビニール袋や樽などの「入れ物」に頭を突っ込んで死んでいた、という話を何かで(小説だったかも?)読んだことがある。「入れ物」の中には少しでも新鮮な空気があるように思われるからだという。

かごに突っ込まれていた死体の表情はもちろん画面に映らなかったが、そのことでなおさら被害者の苦悶の様子が想像でき、わたしもぞっとした。

ただ「窒息死体は『入れ物』に頭を突っ込んでいることがある」という話を知らないと、あのシーンだけでは死体がかごに頭を突っ込んでいる意味がわかりにくいかもしれない。わからないならそれでいい(むしろその方がいい)という作り手の態度は、説明しすぎるよりもむしろ好ましいのだけれども。

 

勉強家コロンボ

この話のもう一つの見どころは、カッシーニと話すためにまじめにワインについて勉強するコロンボである。

酒屋で「90分でワインについて全部教えて」という無茶ぶりをするコロンボコロンボだが、それに応える酒屋の主人もすごい。

話のとっかかりにするためにネタ探しをしていただけかと思って見ていたが、どうやらそれだけではなくかなり本格的に勉強したらしく、最終的にはカッシーニから称賛されるほどのワインチョイスをしてみせた(残念ながらわたしはワインに詳しくないので、どれほどのレベルになったのか感覚的にはわからない)。

わたしの気がかりは、あの食事代は結局チャラになったからいいとして、最後に出してみせたあのワインのお金はどこから出ているのかという点だ。

食事代の方は捜査費用から賄うつもりだった可能性もあるが、さすがにワインは無理ではなかろうか。

自腹だったとしたら「かみさん」が怒りそうだ。

 

ssayu.hatenablog.com