ブログを開設して1年がたったし、何かそれらしいことでもやってみようかと考えている間にいささか時間がたってしまった。この1年で見た作品の中からおすすめランキングでもやってみようかとも思ったのだが、わたしの関心度ならカテゴリ一覧で記事数を比べれば一目瞭然なのでやめることにした。
今回はちょっと趣向を変えて、この1年で出会ったシリアルキラー諸氏の比較でもやってみようかと思う。取り上げるのは主にハンニバル・レクター(ドラマ版「ハンニバル」)、ノーマン・ベイツ(サイコおよびベイツ・モーテル)、●●●●●(ニューダンガンロンパV3・ネタバレなので名前は伏せる)で、これらの作品のネタバレを大いに含む。これから作品に触れる予定のある方は回れ右推奨。また当然ながらそういう話題や画像が苦手な人も続きを読んではいけない。
人選はあくまで「わたしがこの1年で興味を持ったシリアルキラー」という基準で行われているため、なんだこのラインナップはと自分でも思うのだが、そんなことはこのブログのカテゴリ一覧を見れば今さらなので気にしない。
ネタバレ気にする人は去ったかな?
シリアルキラーとしてのスペック
まずは三人の基本スペックを比較しておきたい。
ハンニバル・レクター(ドラマ版ハンニバル)
元外科医で現精神科医。無礼な人間を殺して食べる。
元外科医の経験を活かし、被害者の解体や装飾もお手の物。
Hannibal(ドラマ) カテゴリーの記事一覧 - なぜ面白いのか
ノーマン・ベイツ(サイコ、ベイツ・モーテル)
母親とモーテルを営む好青年。ドラマ版で、モーテルに泊まった人間以外も結構殺していることが判明した。
殺人の手際は良いが後始末はいまいち。
Bate's Motel カテゴリーの記事一覧 - なぜ面白いのか
真宮寺是清(ニューダンガンロンパV3)
超高校級の民俗学者。死んだ姉さんのところに友達を100人送るべく、女性を殺す。
計画殺人もやるが、突発的な事態にも臨機応変に対処できる。
真宮寺是清と死生観の相対化「ニューダンガンロンパV3」キャラ語り05 - なぜ面白いのか
きっかけは女性
ブログ開設1周年記念でチョイスされた人選ではあるが、三人には共通点がある。身近な女性をきっかけに犯行が始まった点である。整理しておこう。
出身地リトアニアで、まだハンニバルが相当若いか子供の頃、地元男性に妹ミーシャを殺して食べられたのがきっかけとされる。ただしそれがどこまで本当なのかは不明。絶対ハンニバル本人もミーシャを食べてるだろ、とわたしは思っている(原作やライジングではそうなっているし)。
今のハンニバルにとってミーシャは忘れることも近づくことも許されない相手で、「記憶の神殿」の中に囲って蓋をしているものと思われる。
ノーマン・ベイツ
母ノーマを暴力から守るために父親を殺したのが最初の殺人だと思われる。
ノーマはノーマンを含むさまざまな男性に依存しまくり、ノーマンが自立しようとするとそれを妨げる。また相手が思い通りにならないとかんしゃくを起こしがちで、相手が折れると「ごめんなさい、あなたを愛してるのよ」などと言い出す。
ノーマンの行動規範は母が中心になり、「母」の幻視を見るようになり、やがてノーマンの中に「母」の人格が生まれる。「母」とノーマンは会話が可能。ノーマを自分で殺すことによって「ノーマン・ベイツ」が完成すると思われるが、ドラマ版ではまだそこまで見ていない。「サイコ」では「母」になったノーマンが女装する姿が見られる。
真宮寺是清
姉の死後、姉に友達を作る(=姉のいる死後の世界に友達を送る)べく女性を殺し始めた。「友達100人」を目標としており、作中ではもう少しで100人達成できたことが示唆される。
姉の死を悲しんだ是清は、自分の中に「姉」人格を作り出した。「姉」と是清は会話が可能。「姉」をその身に宿すためか、是清は日常的に化粧をしており、それをマスクで隠している。
作中、姉については「病気がちだった」「是清に民俗学への道を勧めた」「是清の制服を改造してあげた」ことが是清から語られるが、どこまでが事実かは不明。是清が自分で姉を殺した説も否定できない。また姉は是清の死後、自分と同じところに来てほしいとは思っていないようである。
妹、母、姉とそれぞれ立場は違うが、自分の身近な女性を「守るべきもの」としてそれぞれの形で大切にしていたこと、にもかかわらず「守ることができず」「失った」ことが共通している。
ターゲット
被害者の傾向は三者三様。これもまとめてみよう。
無礼な豚。合言葉は EAT THE RUDE.
無礼な豚からもらった名刺をキッチンに保存しておき、食欲がわいてくるとそれを眺めてターゲットを決める。
なおごく一部の興味を持った対象以外のほとんどの人間は、彼にとって食材である。
ノーマン・ベイツ
「母」にとって脅威となる人物。大きく二種類に分けられる。
一つは「母」に危害を与える存在。父親とか。
もう一つはノーマン自身にとって母以上に惹かれる魅力的な女性。母以外の女性に惹かれることを「母」は許さないため、殺してしまう。
真宮寺是清
姉の友達にふさわしい女性。おそらく是清にとって魅力的な女性とほぼイコール。ふさわしいと認められると「合格」とされる。
ただしよほど下品な言動をしない限りは「不合格」にはならず、基準はそこまで厳しくないものと思われる。「姉さんを寂しがらせない」ことが第一か。
こうして書いてみると、是清の殺人もノーマン的解釈が可能なようにも思えてくる。そしてハンニバルの動機の清々しさよ。
客観性
自身の異常性をどの程度自覚できているか。また対外的にどのように自分の言動をコントロールできているか。
客観性レベルは非常に高い。むしろ自分で自分を精神分析していそう。
社会性、知的レベルも高く、FBIにもあやしまれない。言動は洗練され、礼儀やマナーにはうるさい。無礼な豚は食べられる。
仲良くなりたい相手には自分からぐいぐいいくが、興味のない相手にぐいぐいこられると無礼ポイントがたまって殺してしまう。
ノーマン・ベイツ
現状で自分の症状をどこまで自覚しているかは不明。少なくともS1ではほとんど自覚なし。S2で自覚したかと思ったら「母」がひっくり返してしまった。
「母」が出ていないときのノーマンは、剥製作りが趣味でマザコンなところ以外は、ちょっとナイーブな男の子でしかない。女性に対してあまり積極的ではないが、年相応の興味を示し、それなりに仲良くなることに成功している。
周囲の大人には基本的に従順で丁寧な物腰なため、疑いの目は向けられにくい。
真宮寺是清
客観性レベルは高い。自分の異常性も自覚している。が、自分の行動も一つの生き方であると自分で認めている。
おそらく民俗学を研究する中で、死者との向き合い方にもさまざまな形があることを知り、結果として死生観の相対化が進んだものと思われる。あるいは学問的公平さが行きついた結果か。
対外的な言動は常識的で、民俗学を知らない相手にもわかりやすく魅力を伝えることができる。姉さんの友達としてふさわしいかどうかを判定する必要があるため、女性とある程度まで仲良くなるのはスムーズ。
ハンニバルと是清は、基本的に学者体質であるという共通項もある。
わたしはどこが気に入っているか
せっかくなのでまとめて語っておく。
わたしは「ハンニバル」をグルメ系ラブロマンスドラマとして見ているため、ハンニバルについては片思いの相手に振り向いてもらうために一途なところが素敵だと思っている。
ノーマン・ベイツ
一人の人格が他者の人格を内に取り込む過程を観察できるのが楽しい。
真宮寺是清
デスゲームの中でデスゲームとはまったく関係ない動機で人を殺すキャラという構造的面白さに惹かれる。
こうしてみるとわたしがキャラクターたちを気に入った理由は、シリアルキラーであることよりも彼らの置かれた文脈の方にあるようだ。
死体の装飾
三人の中で、死体の装飾をするのはハンニバルだけ。これは死体は「人間」(豚ではない)へのメッセージとして利用されているから。ウィルと出会った後はもっと率直にラブレターになるから。
ほか二人が死体を装飾する可能性はあるだろうか?
ノーマンはほぼ可能性なし。彼の殺人は脅威を排除するためのもので、誰かに見せるものでも捧げるものでもないから。
是清は可能性があると思っている。作中は閉鎖空間だったため装飾できる余裕はなかったが、十分に準備と後片付けができる環境であれば、つまり過去に是清が起こした事件においては、死体の装飾をした可能性がある。彼の殺人は死者に捧げられるものであり、同時に恋人へのプレゼントでもある。儀式的な意味でもラッピング的な意味でも、死体を飾ることはあったのではないだろうか。わたしとしては、是清はハンニバルでいう tree man ↓(2-6「蓋物」より)みたいな装飾を施すイメージ。
是清はこれを女性を美しく飾るためにやりそうだけど、全裸中年男性でやるのが「ハンニバル」なんだよな……。
おわりに
大した考察もせず力尽きてしまったが、また何か比較ポイントを思いついたら加筆してみたい。
しかし情報を並べて書きだしただけなのだが、自分がキャラクターをどう見ていてどう気に入っているかがわかって面白かった。たまにはこういう記事もいいかも。