一晩たってやや冷静に7-3を振り返られるようになったので、S7において行使された「呪い」と、リトルフィンガーについてのちょっとした思いつきについて語ってみたい。もちろん7-3までのネタバレ満載。
BE a dragon.
呪いというのはもちろん、死ぬ前にオレナさんがデナーリスとジェイミーにかけた言葉のこと。
まずは7-2でデナーリスにかけたこちらの言葉。
"The loads of Westeros are sheep. Are you a sheep? No. You are a dragon. BE a dragon."
煽りますなあ!
その直前の「多くの賢者の言葉を無視してきたからこそ私は彼らより長生きした」という言葉とセットで、これはデナーリスへの呪いとなる。
本来君主のあり方は「羊」と「ドラゴン」の二択ではない。オレナさんは極端な二択を提示し、デナーリスに突きつけた。二択ではないものを二択だと思わせる呪いである。
ティリオンが止めるのを聞かず、キングスランディングに侵攻してしまう結果になりそうだ。まあ全視聴者がそれを待っているわけだが。
She is a monster, you DO know that.
続いて7-3ラストのこちら。ジェイミーに最後の呪いをかけるシーン。
毒を煽ってからのオレナさんの告白はもちろん強烈だったのだが、呪いという点では毒を飲む前の方が技術点・芸術点ともにポイントが高い。
「彼女(サーセイ)はモンスターよ。あなたもわかっているはず」
これはジェイミーから反論を引き出すためのせりふ。相手が話に乗ってきさえすれば、こっちのもの。案の定、ジェイミーは「逆らう者がいなくなれば誰も気にしない」と応えた。ちょろすぎである。
このせりふ、逆に言えば「逆らう者がいなくなるまでは誰もサーセイを止められない」という意味だ。オレナさんはあとでこれを利用することになる。
ジェイミーの反論に対して、オレナさんは反論しない。彼をじっと見つめて "You love her." ときた。
You love her. You really do love her. You poor fool. Shold be the end of you.
きっつー。もうほんときっつー。これはほとんど呪文だ。今後ジェイミーがレッドキープに帰り、サーセイを抱くことがあっても、そのたびに自分は "poor fool" でありこの行為が身の破滅を招くのだと思いだしてしまうはず。まして、発言者が息子の仇となればなおさら。
ジェイミーもここでは "Possibly." と応えるしかない。彼はすでにそれをある程度まで自覚していたわけだ。オレナさんがしたのは、その自覚を表層化させたこと。
ついでに「ジョフリーもミアセラもトメンもあなたの子供だとわかっているのよ」と釘をさせる一石二鳥のデッドボールである。
ジェイミー自身の言葉を利用して、オレナさんは言葉を続ける。
"But perhaps you are right." とジェイミーの言葉を肯定するところから始め、ここまできたらもうサーセイは止められない、"beyond your control" だと言ってみせる。上手い。
"She is a disease."
これが呪いの結びにあたる。
「彼女は病気よ She is sick」ではない。「彼女は病よ」とオレナさんは言った。彼女自身が周囲に感染する病原体だというのである。"Disease" という言葉の重さについてはこちらの記事に詳しい。→病気という意味の illness と disease と sicknessの違い – 英語脳ネット
「私は彼女という病を広めたことを後悔してる。あなたもきっとそうなる」
これが呪いでなくて何だというのか。
自身が死ぬのは「サーセイ」という病に絡めとられたため。ジョフリーやミアセラ、トメンが死んだのも「サーセイ」という病のため。もちろんジェイミーもとっくに感染している。
最初はサーセイのことを「モンスター」と呼び、あえてジェイミーに反発させたが、「病」と呼んだあとのジェイミーは反論できず会話を切り上げることしかできない。
オレナさんがジェイミーに突きつけたのは、
「サーセイは逆らう者が誰もいなくなるまで止められない。たとえあなたであっても、逆らうなら殺される。このままいけば、あなたもサーセイという『病』で死ぬことになる。みすみす死ぬの? それともサーセイを殺す?」
こういう問いである。
ジェイミーの選択
サーセイが女王となることを自身に許したとき、ひょっとしてジェイミーは再度キングスレイヤーになるのではないかと予想した。
ジェイミーは "poor fool" だが、三人の子供たちが死んだのは結局のところサーセイのせいだと理解するだけの能力はある。彼女が本当は「モンスター」であり「病」であることもわかっている。
自身の仕えるべき王が死ぬことでしか止められない「モンスター」だとわかったとき、かつてのジェイミーは王を殺した。もしデナーリスの軍がレッドキープを囲んだら、サーセイは狂王と同じことを言わないと言い切れるだろうか。「あの小娘にやるくらいなら町を燃やすわ」とサーセイが言ったら?
鉄の玉座の前で、あるいはサーセイの寝室で(あの朝チュンシーンはひょっとしてこのための伏線なのではとちょっとだけ思っている)、ジェイミーは……
と思ったけど、いやー、今のサーセイならそれすらも予想していそうな気がする。かつてのキングスレイヤーを、本当に信用するだろうか? もしもジェイミーが覚悟を決めたとしたら、それを敏感に察して先手を打ちそうな気がしてきた。
だってそうでないと、ティリオンとサーセイが再会できないじゃん。
リトルフィンガーと三つ目の鴉
以下はちょっとした思いつき。
過去も未来も見通すというブランがウィンターフェルに現れて、大ピンチかもしれないピーター・ベイリッシュ公。サンサに意味深なアドバイスをしていたが、その真意とは……? というのが7-3だった。
あれからまたいろいろ考えてふと思いついたのが、リトルフィンガーにも三つ目の鴉的能力がある説。
ないない、それはないとわたしも思う。でも妄想を大いに含むこの説は、ちょっと面白いと思ったのだ。
子供の頃、決闘で瀕死に追い込まれたときに能力が開花。
ブランと同じように過去と未来を見通せるようになり、その力を使って出世。
ヴァリスのように「小鳥」を飼っているようにも見えないのに、あらゆる情報を把握しているのもそのため(これは単にスパイと接触する描写を入れていないだけだとは思うのだけど)。
ジョン・スノウの出生の秘密を知っているらしいのもこのため。
「梯子から墜ちて死ぬ者」云々についても、比喩ではなく彼には世界がそんなふうに見えているから。
ハレンホールでアリアを見逃したのもこの先彼女がなすべきことを知っていたため。
サンサへのアドバイスは、この先の展開が見えているから。
「トイレで死ぬ人もいる」とタイウィンの死を予言したのも、偶然ではなく本当に知っていたから。
メタ的には、あの黒くてやたら袖の長いコートは鴉のモチーフ(ずっとコウモリだと思っていたのだが)。
リトルフィンガーの内心を徹底して視聴者に開示しないのもこのため。
……みたいなね! ね!
ブラン来襲でさくっとリトルフィンガーが死ぬ事態になってほしくないせいで幻覚を見ているだけだとわかっているのだが、せっかくなので書き残しておくことにした。