なぜ面白いのか

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「メンタリスト」はなぜ面白いのか

先日、ドラマ「メンタリスト」を完走した。

1話ずつさくっと見ることができて後味さわやかないいドラマだった。

そして「だんだん予算が増える」のはシリーズドラマのお約束だが、「だんだん面白くなる」というのはなかなか稀有な例ではないだろうか。メンタリストはそんなドラマだった。

今日はブログのテーマにのっとって、このドラマはなぜこんなに面白くなったのか主観全開で考察してみたい。

以下、最終シーズンまでのネタバレあり。

 

 

 

 

①ジェーンが魅力的

このドラマの根幹。これがないとこのドラマは成立しない。

彼が「メンタリスト」である以上、「魅力的」であることは必要条件なのだが、サイモン・ベイカーはそれを十分以上に満たしていた。

ジェーンはああいう何もかも見透かしたキャラだけに、うっかりすると単なる嫌なやつになりかねない、危ういバランスの上で成り立っている。脚本も頑張っていたが、わたしとしてはこのバランスを成り立たせていたのは何よりも役者さんの力だと思う。あの笑顔の魅力ときたら。

その魅力的な笑顔と、レッド・ジョンに向ける昏い殺意と、常に左手の薬指で存在を主張し続ける指輪。ここのバランス感覚もすごくよかった。

 

②後味さわやか

最初にも書いたが、このドラマは基本的に1話ごとにさくさく見ることができ、大抵気持ちよく終わってくれる。

逆に言えば胸糞回が少ない。

よくあるではないか、事件の犯人は捕まえることができたが、本当の悪はのさばったままなのだ……とか、なんかもやもやして終わる回のあるドラマ! ああいうのがあまりない。ヴィジュアライズ絡みくらいかな、もやもやしたのは。

人によってはこれはマイナスポイントになるかも。人の心の闇を覗いて震え上がりたい! とか、ガチサイコパスシリアルキラーの凄惨な事件を見たい! とかいう需要は満たしてくれない。そういうのが好きな人はハンニバルを見よう! いやわたしもそういうの好きだしハンニバルも大好きだが、そういうのじゃないのを見たい気分のときはメンタリストを見よう!

 

③チームのメンバーがみんな優秀

CBI時代もFBI時代も、基本的にメンバーはみんな持ち味があって優秀だった。足を引っ張るキャラはチーム内にはいないし、どのキャラがフォーカスされた回も興味を持って見ることができた。

物語を面白くするためにも、各キャラに愛着を持たせるためにも、視聴者のストレスをなくすためにも、これは大事。

ヴァンペルトとオラーフリンの関係についてだけは、CBIのコンプライアンスとか守秘義務とかガバガバすぎない? と思ったが(とはいえ相手がFBIだからな……)。

 

またわたしがS6, 7を特に気に入っている理由の一つが、上司の出来である。アボットは最初こそジェーンに敵対的だが、彼がFBI入りすると割とすんなり「物分かりのいい上司」になる。S6のラストなんて素敵だった。

CBI時代からジェーンたちは新上司が来るたびに衝突し、最終的にはなんだかんだで信用を得るのだが、そこに至るまでストレスフルな状況が続いた。もうそろそろこういうドラマ作りは古いのではないか。味方の中に足を引っ張るキャラはいらない、というかいなくても物語は動かせるし、面白いドラマ作りはできる。

もちろん何かしらの「敵」を用意してそれとの対立を描くのは今でも定石だが、それを味方の中に用意する必要はないというのが最近の流れになっている気がする。

 

④安易にカップルにしない

ドラマを見始めた当初、このドラマはジェーンとリズボンがカップルになる心配がないから安心だな! と思っていた。何しろジェーンは既婚者で、彼がCBIにいる理由は妻子のための復讐なわけだから。

そしてくれぐれもこの二人をカップルにしないでくれと祈りながら見ていた。この二人に特別な絆があるのはわかっていたが、その関係は恋愛でなくていいのだと。

しかしレッド・ジョン事件のクライマックス前から、その関係は変わりだした。ジェーンはリズボンに執着を見せ始める。それはFBIに呼ばれてからいっそう明らかになる。

最初はこの描写に抵抗があった。二人は友情で結ばれていたからこそよかったのに、と。

だがこの物語がどこへ向かおうとしているのか理解するうちに、だんだんと納得できた。

彼ら、つまりこのドラマを作っている人たちは、この物語を「レッド・ジョンの最期」で終わらせなかった。この物語を復讐で終わらせなかった。

この物語はジェーンの再生を描くものだった。

一度は自分自身に絶望し、復讐のみを生きる糧にしていたジェーンが、信頼できる友を見つけ、人を愛する感情を取り戻し、「幸せになってもいい」と思えるようになること。それがこの物語の終着点だった。

それなら、いいかと思った。

そこまで描き切ってくれるならいいか、と。

安易に手近な男女をカップルにしたわけではなく、物語の最初の動機(モティーフ)がきちんと収まる形での決着ということにしたのなら、納得しようと。

それに大事な人を失って他人と距離を詰めるのを恐れていた人が、不器用ながらも自分の鍵をこじ開けるのは定番だけど好物だ。デレモードに入ったジェーンはかわいい。

S6の二部構成自体がそのためのもので、なんというか、ジェーンというキャラクターがいかに作り手から愛されていたかが察せられる。

 

 

とりあえず自分にとっての面白かったポイントはこのあたりかな。

お気に入りのエピソードはいろいろあるのだが、以下、特に印象的なエピソードをあげておく。

 

4-7 点滅するレッドランプ

シリアルキラーのパンサーと番組で対決してレッド・ジョンに始末させる回(雑なまとめ)。

あの長い沈黙からジェーンがレッド・ジョンの名前を出したときの「あ……!」って背中が冷たくなる感覚。その方法をとるのか、とぞっとしたしものすごく興奮した。

レッドランプを見つめながら考えるジェーンの表情もよかった。思いついてしまったらやらないわけにはいかないよな、ジェーンなら。全然揺れてない。

この回、ハイバックとかいう迷惑野郎も初登場している。あの町ヤバいよなあ。

 

6-3 血塗られた結婚式 Wedding in Red

タイトルが出オチすぎる。絶対レッドウェディング(ゲームオブスローンズの)を意識してるでしょ! と思ったら、レッドウェディングの4か月後にこの回が放送されていた。これ当時アメリカで話題になっただろうな。日本語タイトルもそのまんまだし翻訳屋さんもわかっててやってるっぽい。

 

7-6 グリーンライト

ジェーンの誕生日にリズボンがあのカップを贈る回。

あのプレゼントはわたしにとっても予想外で、心が温まった。

壊れたものもまた直せる。失った時間も取り戻せる。何もかも台無しになったと思ってもまたやり直せばいい。そういうメッセージだ。

あれはリズボンからジェーンへのプレゼントであると同時に、ドラマの作り手から視聴者へのプレゼントでもあった。

しかしカップが割れCBIが解散したとき、あのオフィスでひとり破片を集めたリズボンのことを想うと胸が痛む。それから2年以上、破片を捨てることはできなかったんだな。あの田舎にも、オースティンに引越すときも処分せず持ってきたわけでしょ。

リズボンにとってカップの破片はCBI時代の思い出の象徴で、それをジェーンに「返す」ということはやっぱりそういう意味なのだ。

 

 

そんなわけで結構なボリュームがあったがかなり一気に見てしまった。

1-2でいきなり犯人が問答無用で射殺されたときは「さすがアメリカやで……」と思ったものだが、なんだかんだで7シーズンがっつり楽しませてもらった。

ハッピーエンドでよかったなー!

 

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