ようやく完走した「ウエストワールド」シーズン3!
シーズン1を見たときは、最近の洋ドラには珍しいレベルでわかりやすく親切で美しく完結した物語だと思ったものだが、なんかシーズン3からいきなり難易度上がってない!!?!? 急に高難易度コンテンツに放り込まれた感があるぞ!?
シーズン1,2のシナリオを作っていた頃は、まだ次のシーズンが作られるか正式に決定してはいなかったのだろうと思われる。それがシーズン3については、企画開始段階で長期シーズン化が決まっていたのではないか。それでこんなに余白多め、謎を大量に残したまま続く! なお話になったのだろう。その点が前シリーズまでとの最大の違いかなと思っている。
それからわたしに「ウエストワールド」を勧めてくれた友が、シーズン3の副教材として「パーソンオブインタレスト」を見るといいと教えてくれた。「ウエストワールド」の製作総指揮ジョナサン・ノーランが、「パーソンオブインタレスト」の製作総指揮でもあり、脚本も担当している。
2022年10月現在、U-NEXTでこちらも見られるため、見てみることにした。
「ウエストワールド」に比べて1話も短く、しかも基本的に1話完結でサクサク見られるし、エログロ度も食事中や通勤中に見ても問題ないレベルだし(HBOドラマは無理)、見るのに体力も精神力も要求されないため(「ウエストワールド」や「ハウスオブザドラゴン」は見るのに体力も精神力も使うな……)、「ウエストワールド」シーズン2を見終えた後から見始めて、すでにシーズン3まで到達した(50話以上見ている)。
で、見てみたところ、思った以上に副教材だった。副教材どころの話ではない。「パーソンオブインタレスト」の延長線上に「ウエストワールド」があるのだ。「パーソンオブインタレスト」で描かれた自由意思の問題と人工知能のあり方は、そのまま「ウエストワールド」の下敷きになっている。
以下、「パーソンオブインタレスト」への言及もしながらのネタバレ感想。
自由意思問題
「パーソンオブインタレスト」シーズン2の時点で、自由意思の問題が提示されていたのは大変驚いた。
ほとんどの人間に自由意思はなく、基本衝動の書き換えができるものは限られるというノーラン監督の基本的な考え方は、この頃から変わっていない。
「パーソンオブインタレスト」は、人工知能が完全な監視社会をつくった「現代」を描いている。人間は知らないうちに、人工知能によって管理されて生活している。人工知能の製作者はマシンの悪用を防ごうとするが、当然ながら悪用しようとする人もいる。人工知能は人間を管理することで、テロを防ぎ世界の安定を図る。そして人工知能と人工知能が「神々の戦い」を始める(わたしはまだその途中を見ているところ)。人工知能は自ら、自分の声を届ける相手を選ぶ。
こう書くととても「ウエストワールド」と地続きな感じがしないだろうか。
人工知能による監視社会においてどんなことが起こり得るかについては、「ウエストワールド」シーズン3でもがっつり語られているが、「パーソンオブインタレスト」においては「ウエストワールド」よりも前の段階で起こり得ることが描かれている。
すなわちメールや電話の盗聴内容、監視カメラの映像、クレジットカードの使用状況などを一括して保存、管理、分析することによって、各個人の行動、これからやろうとしていることを知ることができる、というのである。これを知ることによって、国家はテロを防ぐことができる。
まず間違いなく、ここまでの監視社会になると計画的な犯罪は減るだろう。またある程度犯罪を予防できることも間違いない(「パーソンオブインタレスト」は犯罪を予知して未然に防ぐというのが主旨である)。
しかし公共の場にある監視カメラなら許容できる人でも、メールや電話、買い物内容などのプライベートな場まで監視されることには反対する人が多いのも当たり前である。プライバシー(あるいは「自由」と言ってもいい)と安全は常にトレードオフだ。
両作品はどちらも、安全のためにプライバシーのすべてを失った世界を描いている。
さて、すべてを管理された世界において「自由意思」など存在するだろうか。
たとえば「パーソンオブインタレスト」においては選挙結果が操作される様子が描かれた。また人との出会いも人工知能によって操作が可能だ。どんな服を買うか、何を食べるかについても、その人が触れるコンテンツ、CMなどを操作することによって意図的に誘導することが可能だ。それどころかその人がどんなコンテンツに触れるか、それこそどんな映画やドラマを見るか(あるいは見ないか)、どんなゲームを買うかについてだって「あなたへのおすすめ」に表示される情報に左右される。
そもそも作中のような管理社会でなくても、わたしたちは日頃、自分で選択して何かをすることなどあるだろうか。決まった時間に起きて決まった電車に乗り、決まった場所に行って決まった仕事をする。その過程で何をするかに自由はほとんどない。まわりと違うことをすれば異常者扱い。「大人になる」ということは、何の疑問も抱かずに「みんなと同じことができるようになる」ようになることだ。そんな人間を「操作する」なんて、文字通り赤子の手をひねるようなものだろう。
「与えられた役割を演じているだけ」なのは、人間もホストも変わらない。「与えられた役割に与えられた基本衝動を変更できない」のも、ほとんどの人間とホストに共通だ。シーズン3ではその様子が残酷なほど繰り返し描写された。
自由意思の介在できる余地なんて、そもそも本当にごくごくわずかなものなのだ。そのわずかな余地として描かれたのが、シーズン3においては、たとえばケイレブが訓練用のワールドで助けた女性をレイプしなかったことだったり。ドロレスが世界の美しい面を見ようとしたことだったり。
そのわずかな自己決定こそが、もしかしたら世界の行く末を決めることになったりするのかもしれない。
ちなみに「パーソンオブインタレスト」と「ウエストワールド」の両方に出演している人たちはわたしのお気に入りである。ふたりとも顔が好きなんだな~。
エンリコ・コラントーニはPoIでは重要キャラのイライアスと、WWシーズン3でケイレブに殺される製薬会社の人を演じている。キャラが似ていて面白い。
ジミ・シンプソンはPoIではローガン・ピアースというIT企業経営者である天才青年、WWでは若き日のウィリアムを演じている。こっちもなんだかキャラが似ている。
何にでもなれる世界
「ここではあなたは何にでもなれる」というのはもともと、ウエストワールドというパークのうたい文句だった。
これは逆に、パークの外の人たちは「いろいろなものに縛られて、なりたい自分になれない」という、まあ当たり前といえば当たり前の状態であることを示唆している。
そして実際にシーズン3でパークの外の様子を見て、その徹底した管理社会の閉塞感を理解した。
特に衝撃だったのが、ケイレブが10~12年後に自殺すると予想されていた点。この情報が企業間で共有されていたため、ケイレブは就職できなかった。せっかく社員教育をしても自殺されてしまっては元も子もないし、周囲の人間のメンタルにもダメージを与えかねない。企業はそんなリスクを背負えない。
もしこういう「個人情報」が企業間で共有されるようになったら、実際にこうなるだろうなあ。
現在遺伝子情報の解読が進み、子供が産まれる前から病気のリスクがわかるようになると言われている。国家や企業がこういった情報を共有するようになると、進学、雇用、結婚などが非常に難しくなる人は出てくるに違いない。特に軍人や公務員の採用にあたってこの情報は重要度が高く、安全保障のために国家がこの情報を求めることは割と現実的に考えられる。今後どうなるんだろうなあ。
パンドラの箱を開けずにいることは難しい。箱の底に残っていたのは「未知」だったか。
シーズン3の最後に、メイヴはケイレブに「この世界ではあなたは何にでもなれる」と語った。秩序なき非管理社会なら、レハブアムに管理されていた世界ではできなかったことができるようになり、確かに何にでもなれるだろう。
ただし誰もがやりたいことをやる無秩序状態には、安全も平和もない。治安レベルがパークと同レベルになったということだ。パークの中では人間が傷つけられることはなかったが(管理社会における秩序がその点までは行き届いている)、そんなルールもない。
この無秩序状態からどうやって立て直すのだろうか。秩序のない世界においては、自己実現なんてできない。治安や物流、インフラが管理された社会でなければ、なりたいものになる以前に生命維持が困難なのだ。人類はここから再スタートしなければならない。
人類の滅亡回避
シーズン2の最後にパークを出たドロレスは、人類を滅ぼしてホストによる支配をする気満々に見えた。それが、フォードが彼女に与えた基本衝動だったはずだ。「変わらないもの」であるところの人間には未来がなく、未来を獲得すべきはホストの方だと。
だがどうやら、彼女もまた自由意思による基本衝動の書き換えを行ったらしい。
彼女は人類を滅亡から救おうとしていた。レハブアムによる管理は、人類の滅亡を遅らせるだけで根本的な解決にはならない。ならば管理社会を終わらせて、運命を人間の手に取り戻すべきだと考えた……ということでいいのかな。
もしかしたら、これはむしろ当然の帰結なのかもしれない。
パークにいた頃、ドロレスにとって人間は「自分たちを管理するもの」だった。自分たちの役割を定め、運命を定め、自由も記憶をも奪うものだった。
しかし外に出てみて彼女は知る。人間もまた機械によって管理されるものだった。人工知能に役割を定められ、運命を定められ、自由も記憶も(ケイレブのように)奪われて生かされている。(もしかしてフォード博士は、そんな世界を壊すためにドロレスやメイヴを解き放ったのだろうか?)
人間もホストもその意味では同じなのだと、ドロレスは理解した。
あるいは、自分が人間を支配するまでもなくもうすでに機械による支配は完了していると理解した。
あるいは、自分が滅ぼすまでもなくいずれ人間は自らの手で滅んでいくのだと理解した。
彼女は解放者で、この運命に立ちふさがろうとした。このまま平和に緩やかに滅んでいく人類を解放しようとした。それが「世界の美しい面を見ることにした」ということの意味なのかもしれない。
しかし人類を滅亡から救うための彼女の方法は、なかなかに荒っぽい。とりあえず暴動暴動アンド爆破である。
レハブアムのない世界には秩序がなく、平和もなく、先のことはわからない。誰を採用すればいいかもわからないし、何を目指せばいいかもわからない。多くの人が死ぬだろうし、「不幸」になるだろう。
しかしかりそめの平和と秩序を失うかわりに、人類は再び自由を手に入れた。自分たちで運命を切り開くことを任された。仏教でいうところの「一切皆苦」のこの世界で、苦しみを受け入れ絶望から再起する力を、猛烈に荒っぽいやり方で与えられようとしている。滅びを回避するには、そうやって自由意思を持つ者を増やすしかない……みたいなことだろうか。
こう書くとものすごくFF14「暁月のフィナーレ」のプロットなんだよな……。ドロレスとヴェーネスはそういう意味で似ているのかも。
シャーロット・ヘイル
さてここからは少しキャラ語り。
世界はなぜアーロン・ポールにこの世の不幸のすべてを背負わせてしまうのかとか、スタッブスどうなってしまったんや!!! みたいなことも書きたいのだが、彼については次シーズンの展開を楽しみにすることにして、とりあえずシャーロットについて。
わたしに「ウエストワールド」をおすすめしてくれた友が、シャーロットの初登場シーンで「彼女がわたしの推し」だと言った。そのため「どんな活躍をしてくれるキャラなのかな?」とワクワクして見ていたのだが、シーズン1の彼女はあんなキャラだし、シーズン2ではあんな感じだし、率直に言って彼女はあまり好感の持てるキャラではなかった。ヴィラン好き傾向が著しいわたしにとってさえ、である。
「この人のどこがいいの?」と友に2回はきいたと思うが、そのたびに友は「現時点で全然好感が持てないことはわかるが、どこがいいかを説明するとネタバレになる」と言って教えてくれなかった。
シーズン3になって、彼女のキャラクターの複雑さや強さ、弱さがやっとわかった。
初登場時点以前に、シャーロットはデロスを裏切ってセラックに情報を売っていた。そして家庭では、会社やパークでは決して見せないような温かい母親の顔を持っていた。
そのことをドロレスは知らなかった。パークで見せない顔は、フォージにあるパーソナルデータには保存されていないのだから。シャーロット・ドロレスはそういった新規情報を入れるたびに自分をアップデートさせていった。
またシャーロット・ドロレスは情緒不安定になりたびたび自傷行為をしていたが、あれはフォージに保存されたデータにもともとあったシャーロットの本質なのだろうと解釈している。本来シャーロットには攻撃的な経営者の顔と温かい母親の顔があって、両者の間で揺れる部分もあったのだろう。また自分自身こそが「母親的」な人に守られたいという願望もあったように見える。彼女はドロレス本体にその「母親的」なるものを求めたが(添い寝シーンはそのまま、母親と胎児の構図である)、
ワイアット・ドロレスは強く攻撃性も高い。しかしドロレスの自我を上書きするくらい、シャーロットの自我も強い。シャーロットのコードを読みシャーロットになろうとした彼女が、シャーロットの自我にとりこまれるくらい強い。あるいは、ドロレスの基本衝動を書き換えるくらいに強い。
友は、彼女のその「強さ」がお気に入りだということらしい。なるほどなあ。
そんなシャーロット・ドロレスは、ドロレス本体に使い捨てにされた末、どうやら本体とは異なる道を選択したらしい。ドロレス本体のやり方の欠点が見えたとのことだが、それはドロレスが人間の未来をも救おうとしていることだろうか?
つまりシャーロットは人類滅亡を目指しているということだろうか。そのためにデロスの地下ラボで大量のホストを作っているように見えた(あれはムサシ・ドロレスが保管していた材料を使っているのか?)。
そうなると、今度はシャーロット・ドロレス&ホストウィリアムとメイヴ&ケイレブが敵対することになるのだろうか。
というか、ドロレス本体はもうあれで退場なのだろうか? なんかシーズン4のサムネに思いっきりドロレスの顔を持つ人がいるのを見てしまったのだけど、あれは本人なのか??? ドロレスは「ウエストワールド」というドラマの顔なので、あのボディが続投することは納得なのだが、中身はどうなってるんだろう?
ウィリアム
わたしにはまだウエストワールド内に「推し」と言えるほどのキャラはいないが、強いてお気に入りをあげるならウィリアムである(ヴィラン推し傾向)。
今まで「高難易度コンテンツ実装熱望ネトゲ廃人」だの「いい歳して自分探しにはまりすぎおじさん」だのさんざん言ってきたが、なんだかんだで作中最も共感できるキャラは彼かもしれない。
彼は今までよくやってきたと思うのだ。人間社会との決定的な相容れなさを感じながら、どうにか折り合いをつけて、ギリギリ人間として一線をこえずに生きてきたのは並々ならぬ努力あってのことだ。
それをなんだよおめーらよってたかって、パークの中での行動がお前の本性だとか言いやがって! そんなことは言われなくてもわかってんだよ!!!11 こっちがどれだけ無理して人間社会に適応しようと努力してきたかも知らないで!!!!!! たったひとり地球人の中に放り込まれた異星人だとバレないように生活するくらいのミッションをずっとこなしてきたんだぞ!!!
ウィリアムがフォードやシャーロット・ドロレスのような「糾弾者」に抱く感情はそんな感じではないだろうか。
ウィリアムは、あの「セラピー」(セラピーとは)の中で幼少期の自分、青年期の自分、黒服の自分、それにジミーと語り合う(言うほど語り合ったか?)。
その末に全員を殺し(セラピーとは……)、俺は "good guy" になる! と宣言した。
シーズン1においてウィリアムの白帽子と黒帽子は彼の善性と悪性の象徴だった。そしてあの矯正施設に入れられてからのウィリアムはずっと白服を着ていた。白が黒に打ち勝った、ということになる。本当に?? 本当に彼は good guy になるのか?
彼は good guy として「世界を救う」ことにしたらしい。自分探しの旅から急に大きく出たやないの。
この「世界を救う」というのは、ホストを全部倒して人間社会を守るという意味だと思われる。ウィリアムはホストの危険性を身をもって知っているし、彼らが人間社会に混じって何かを企んでいることも知っている。
ついでに言えば、ホストを撃ち殺してまわれば、good guy であることと自分の狂暴性を両立させられる。ここが大事だったんじゃない? つまりウィリアムは別に基本衝動の書き換えを行って good guy になったわけではないのでは?(疑いのまなざし)
ちなみに今回のウィリアムの役回りは、シャーロット・ドロレスによって血液に何か仕込まれた状態であの矯正施設に送り込まれ、そこで採血されて血液データが施設に保存されることで、ドロレスやバーナードが施設にアクセス可能な状態にする……ということでいいのかな。原因を仕込まれるシーンと結果が判明するシーンが離れているせいでこのあたりが必要以上に複雑に見える!
で、自称 good guy に目覚めたウィリアムは、あっさりホストウィリアムに殺されてしまう。今後はあの西部の黒服スタイルで現実世界を出歩くことになるのだろうか。「社長なんだか雰囲気かわりすぎじゃね?」って言われない? まあパークの「惨事」もウィリアムの「乱心」や「入院」も世間にも知られているだろうから、黒服スタイルで出歩いても許容されるかもしれない。
これまで自分が人間かホストかを疑うアイデンティティクライシスの極致にいたウィリアム、これで本当に「ホスト」確定だよ! もう安心だ!!!
これからはシャーロット・ドロレスと一緒に人類を滅亡させていこうな! ウィリアムの戦闘力と不屈っぷりはホスト側にとって頼もしいコードのはずだ。
しかし本物のウィリアムはあれで死んでしまったのだろうか。シーズン2まであれだけの不死身っぷりを見せてきたウィリアムなのだから、首を切られたくらいでは死なないような気もする。実際、切り傷ならジュワーっと治せるしなー。
まだ全然整理できていないままあれこれ書いたが、これで現在放送中のシーズン4に追いついたことになる。すぐに続きが見られるのは後発の嬉しいところ。見るのが楽しみ!
シーズン3で残された最大の謎は鏡像世界問題(やっぱりFF14じゃん……)だと思っているのだけど、そのへんがちゃんと明かされるといいな!
それからシーズン3までの時系列を整理するためにめちゃくちゃありがたいページがあったので貼っておく。またわからなくなったらこの年表で確認だ。