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「ハンドレッドライン Hundred Line 最終防衛学園」全エンドクリア後キャラ語り1

ひとつ前のクリア後感想記事をアップロードしたのはほんの数時間前のことなのだが、すぐに次のゲームやるぞ! とはまだ思えず、もう少し余韻に浸っていたいので、キャラ語り記事でも書くことにした。

ついでに作中で謎のまま残された部分に関しても好き放題妄想を書くので、暇で暇でほかにやる人がないという方はお楽しみください。書いてるうちに長くなったから、今回は最初に会った最終防衛学園メンバー(第一メンバー)について。

当然ながらすべてのエンディングをネタバレしているので、未プレイの方、プレイ中の方は読まないようお願いします。

初回記事はこちらから。

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1周目の記憶

 

澄野拓海

ボケ、ツッコミ、片思い、もてまくり、狂言回し、信頼できない語り手、他殺に自殺に事故死とあらゆる役回りをこなすオールラウンダー。やってないのは計画殺人くらいかな(「計画を立てる」などの複雑なことを彼に要求してはならない)。

エンディングが100もあることによる恩恵と被害を一身に受けまくった人。

彼にもう少し合理的な思考力と報告・連絡・相談意識があれば、いくつかのルートはもう少し容易に事が運んだのではないか。地球人は人型兵器に同人知識を植え付けるより先に、ほうれんそう意識とリテラシー意識を身につけさせるべきだった。

限られた時間と資源の中でこの作戦を実行しなければならないという状況で、異血兵器を未成熟な状態で出撃させなければいけなかったのはわかるんだけどね。本当に人類の存続がかかっていたなら、もうちょっと優先順位ってものがあるよね。

人類を守るために作られた「設定」にしてはだいぶふざけすぎているので、実はフトゥールムも学園も完全な娯楽のために作られた大規模な舞台だった説、最初からループを抜け出すことを目的に作られた試行グループのひとつだった説とかも考えてしまった。

拓海くんが2周目以降をずっと「2周目」の認識で過ごしているのは、1周目の記憶しか引き継げないからということでいいのだけど、なぜ「失敗した! やりなおそう」と一度も考えないのかは謎。

いやプレイヤーにとってはどのタイミングでも「失敗した! やりなおそう」が可能なわけで、そして実際に多くのプレイヤーが「失敗した! やりなおそう」と決めて任意のタイミングで前の選択肢に戻ったりしているのだろう。だから拓海くんの中には常にその思考があった(テキストに出ない部分で)と言われればそれはそう。

ただわたしとしては、たとえば20日目くらいの時点で「今戻ったら1日目よりも前からやりなおせるのでは?」みたいな展開があるのを期待していたので、そういうのが拓海くんの意識上で検討すらされないのが不思議だった。

拓海くんがしたのはあくまでタイムループであって、タイムリープではないから、そういうのが不可能だとしたらそれでもいいのだ。ただ、それは不可能です! とゲーム上で確認するシーンがほしかったなっていう。SFTL以外の拓海くんにとっては、タイムループの意識はなくてずっとタイムリープのつもりだったのだろうから。

で、そのへんに納得するために考えたのが「1周目までが全部設定で、実際の拓海くんたちは2周目の1日目に目覚めた」説である。名簿上の登録情報が「失敗」なのは、彼のために用意された「本当の戦う理由」は「(1周目の失敗)失敗」だからである。

拓海くんには本当は「やりなおし」能力はない。タイムループ現象に巻き込まれているだけ。オープニングシークエンスが全部「そういう設定」だったなら、1周目までが全部「そういう設定」だった、でも通るんじゃないのっていう。

最初から拓海くんを「モチベーションと戦闘力の高いリーダー設定」にするために「1周目の記憶」を入れておきました的な。記憶だけでなく、赤子クローンが存在するのなら、そのうちの一人の異血を拓海くんに吸収させておいてもいい(実際に人工天体でそういう実験が行われていた可能性は高い)。

1周目にダルシャーが出てこなかったのは、彼が長らく幽閉されており、「設定」を作る人もダルシャーの存在を知らなかったから、とか。

あとは「世界死とは、世界が絶望して無限ループに入ることだったのだ! ループを打破するために作られたのが異血を備えた特防隊だったのだ!」みたいなのもあり得るかなと思ったけど、どうやってループ開始を感知して「1日目」に特防隊を起動するのって話だから難易度が高すぎるか。異血パワーでなんとかならない?

ヴェシネスが「この先にあるのはこの星の絶望」的なことを言ってたのが気になっている。あれがループの示唆だったら面白いなって。フトゥールムには「呪輪廻」とやらの伝説もあるようだし。

わたしが思うに、拓海くんの最大の能力はタイムリープでもタイムループでもなく、「分岐を作る」ことである。100あるエンディングのすべてにおいて、拓海くんの選択が分岐を作っていた。

SF編の比留子さんが拓海くんにコイントスの結果を選ばせたシーンを見ると、比留子さんも「世界の分岐は拓海くんの選択によって発生する」ということがわかっていたのではないか(そうでなければ自分で選んでも問題ないシーンなので)。

本来、ループとはずっと同じ状態が続くことである。そこに拓海くんという変数が加わることにより、ループは変化する。やはり拓海くんはループを打破するために作られたキャラで、1周目は全部設定だったのだ! うーん、この説を捨てがたい。

ちなみにその場合、拓海くんこそが隕石に祝福された「特異点」ではないかと思っている。神座総合病院で人工的に作られた「特異点」こそが澄野拓海だったのだ! うーん……これ以上拓海くんに設定を盛るのは気の毒かな……。

髪が二色問題は結局何だったんだろうな。澄野家(拓海母は非実在だったが)とヴェシネス家(イヴァーとカミュン)だけ、髪が二色だったことに何か意味があるものかと思っていたのだが。

拓海くんが人工的に生み出された存在である以上、ヴェシネス家と共通のご先祖様がいるというのもなんだか違いそうだし。異血のうちの何か特定の成分が、ヴェシネス家と拓海くんに発現した、みたいなことだったのかな。普段なんだかんだと理屈をつけて拓海くんのことを疑おうとする特防隊のみなさんが、部隊長と拓海くんの髪色の特徴をまったく指摘しないのはちょっと不思議だった。

結局、ただのファッションだった可能性も普通にある。でもあの髪色も神座総合病院の人たちがデザインしたものでしょ? 何の意味もなく大物部隊長を思わせるデザインにするものだろうか。

ループを脱した拓海くんがタイムマシンでフトゥールムの過去に戻ってつくった子どもたちがヴェシネスたちだったのだ! とかも考えてみたけど(未来のフトゥールムの平和のためにはカミュンの存在が必要なので)、それだとイヴァー編がとんでもないことになるので、やっぱ今のなし。

 

厄師寺猛丸

厄師寺くんの「いい人」エピソードを見るたびにちょっぴり微妙な気持ちになるのは、ガチの暴走族、ガチのヤンキー設定だと「人類を守る特防隊」にしては不適切な言動をしかねないという「地球人の都合」を感じてしまうから。

だから「特攻できるマインドを備えた」「非常に共感力に優れたマイルドな性格」のヤンキーとかいう奇妙なキャラになっちゃったんだな。ギャグ描写として受け入れられる範囲だったけど、それもこれも全部地球人のエゴを押しつけられた結果じゃん……と毎回思ってしまう。

1周目の序盤で大活躍したからか、後半は影が薄かったかもしれない。何よりも、厄師寺くんメインルートが存在しないのが残念。いちばん印象に残ったのは自爆シーンである。

厄師寺くん自爆ルート以外のすべてのルートにおいて、歪くんが初手からカリスマドーピングをするのを防いでくれているので、ある意味で彼こそが裏のMVPと言えるかもしれない。

デスゲーム編で敵対するのも印象的だった。拓海くんがみんなを誘って参加したデスゲームでいきなりくららちゃんが死んでしまったので、もう拓海くんは信用できない! と考えるのはよくわかる。最後は死をもってけじめをつけたので最終的な印象も悪くなかった。

けどあそこでイヴァーを殺そうとするのはちょっとな……。まあデスゲーム編の厄師寺くんたちはイヴァーとほとんど交流もしていないし、彼にとっては「ただの捕虜」だったのだろうけど。

しかし今デスゲーム編のスクショや自分の感想を眺めていると、やっぱりデスゲーム編のライターさんって、バランス感覚という意味では群を抜いて優れている気がする。面影歪がひたすらいかがわしいくらいで、感情の流れをぶったぎるようなギャグを入れられた記憶もほとんどないし。そしてその面影歪に対しても、わたしが感想で一言目から「おもしれー男」と言うくらい、最終的に好印象だった。まあこれについては歪くんのところでちゃんと語ろう。

 

雫原比留子

数十年ループした人間のこの台詞、重い

このブログではたびたび書いてきたが、お前が宇宙のヒロインだ。異論は認める。

ただし比留子さんが拓海くんに惹かれるきっかけとなったエピソードは、もっと濃密に描写してほしかった! どのルートが比留子さんにとって初期のものだったのかはっきりさせていないから、難しいのだろうけど。もしかして本当にあのソフビ人形の会話がきっかけだったんだろうか。

これ以外に思い当たる部分がないんだよな。そして比留子さんの置かれている状況の過酷さを考えれば、仲間のひとりからふとかけられたこんな言葉に心を持っていかれるのもわかる。むしろ現実の恋愛のきっかけもこんな会話だったりするよなという気もする。

けどせっかくテキストベースのゲームなのだから、もっと濃密なエピソードがあったらもっと比留子さんに感情移入できたのに! とは思う。もったいない。

ここで拓海くんに惹かれたからこそ、比留子さんは彼の弱音を聞き、彼こそが殺人鬼だと察していながらそのことに決着をつけられなかった。推理TLで犯人あてに失敗したときはあんなにあっさり収監宣告してくれたのになあ! 雫原比留子、マジで罪深い女。自分の罪深さを自覚して、自ら何度も死ぬような選択をしているところまで含めて罪深い。

この100のループを終えたさらに先で、横移動のできるプログラムに気づいて「タイムリープ」をすることで、すべての真相を明らかにしてループを終わらせる、本当の真エンドがあったのだろうとわたしは思っている。

そしてそのルートの先で、比留子さんとかわえもんが協力してタイムマシーンを開発。SFTLの自分がいつどこに現れるかを思い出し、過去の自分と対面してプログラムを渡す……みたいな想像。

「おばさん」は比留子さん以外と対面していない。自分の匂いには気づかないので、「おばさん」についてラベンダーの香りの描写がなくてもおかしくない。SFTLの比留子さんがあの日あの場所に現れることを誰よりも知っていたのは、比留子さん本人のはず。だからやっぱり「おばさん」は未来の比留子さんなんじゃないかな。あの警戒心の高い比留子さんが一瞬で信用していたことを考えても。

ついでに、比留子さんがPL装置を調べるきっかけになった「声」というのも、未来の比留子さんだったのではないか。

ちなみにわたしはSFTLの比留子さんを見ながら、100回以上ループしてるのに全ルートで何日目に何が起こったって覚えていられるのすごすぎない? とずっと思っていた。わたしなんてプレイ日記を見返しながらついていくのがやっとだったのに。

もし「1周目が丸ごと設定だった説」をとるならば、比留子さんは1周目の時点で「周回キャラ」として設定されていたということに。それはそれで、普通にあり得るんだよな。彼女には「戦う理由」らしきものがはっきりと設定されておらず、「ループを抜けること」がそのまま「戦う理由」になっていたわけで。そうであれば、彼女の名簿上の登録情報が「虐殺」なのも理解できる。

 

飴宮怠美

声優さん上手すぎ大賞。彼女の存在にリアリティを与えるのは難しかったと思うけど、「声優さんの演技が上手い」というある種の力技でなんとかなっていた気がする。

怠美ちゃんルートに進むためには、ギスギス学園化が必須なのがめっちゃわかる~! 学園内がギスギスしているほど彼女はイキイキしているし、特防隊の仲が良いときほど彼女の影が薄い(SFTLとか)、もしくは死んでる。

デスゲーム編では、希ちゃんがかつての母親との関係から自己犠牲でしか愛情を示せなくなっていることが指摘された。しかし怠美ちゃんこそ、希ちゃんに輪をかけた自己犠牲キャラだ。ノモケバ編でもデスゲーム編でも、彼女は自己犠牲を見せる。

彼女は最悪な家庭環境のせいで自己肯定感が低く、やはり自己犠牲でしか愛情を示せない。周囲の気を引くためには過激な言動を繰り返さなければならない。しかしその過激な言動すらも「みんなのため」だった。

ノモケバ編とデスゲーム編の怠美ちゃんだけで、彼女が本命になってしまったプレイヤーも多いのではないか。

あとノモケバ編で怠美ちゃんを殺すルートで、結局最後まであれが怠美ちゃんだったのかノモケバだったのかわからないという終わり方が、非常に「怠美ちゃんが好きなゲームや映画のシナリオっぽい」んだよ。そういう意味で、怠美ちゃんはシナリオライターに愛されてたんだろうなと思わせてくれる。

デスゲーム編の怠美ちゃんも好きだったな。デスゲーム編の「罪の意識を共有する4人」はみんな好きだ。あの四角関係をずっと見ていたかった。

比留子さんと怠美ちゃんの関係ももっと詳細に見たかったなー! 比留子さん、怠美ちゃんのことをどんなふうに手なずけてたんだろ。

そういえば怠美ちゃんには戦う理由設定がないわけだが、「自暴自棄で危機的状況に歓喜し、率先して戦いに赴くキャラ」と設定されており、これは戦場に出撃させるにあたってひとり存在している意義を感じる。彼女自身も自覚しているように真っ先に死ぬタイプではあるが、蘇生マシーンがある以上、多少の無茶は許されるわけだし。

ちなみにコミケとかに行くと怠美ちゃんのような外見の女性はコスプレ以外でもまあまあ見かけるので、結構リアリティのあるキャラデザインだよなあと思っている。

 

蒼月衛人

「設定」に振り回されて自分に「真実の目」があると思い込み、真剣に人類滅亡のために暗躍した、哀れな道化。「舞台上で最も哀れな役者」は間違いなく衛人くん(最近どのゲームでも「舞台上で最も哀れな役者」大賞を決めがち)。

衛人くんが嫌いなオタクなんていません(クソデカ主語)。いやどうしたって好きになってしまうでしょ。わたしのようなヴィラン愛好家でなくても、衛人くんは好きになるでしょ。

目的意識がはっきりしていて、目的を達するための努力は惜しまず、目的を達するための実力もある(とはいえ衛人くんもそこまで計画的とは言えない。大体は「幸運」設定でしのいでいる)が、しかしその目的も、そのための努力も実力も、すべてが無意味で無駄である。

ヴィラン愛好家でなくても衛人くんを好きになってしまうのは(好きになるのが前提の書き方)、彼の思考も行動もすべてが無意味で無駄だったと彼が自覚した後のことがしっかり描写されるから。真相解明編とさよなら蒼月編のふたつだけでも、彼を好きになるには十分だ。

ちなみに真相を知らない衛人くんも特防隊に協力的になるルートはいくつかあった。まずはSF編。ドルメン式洗脳改良版を使ってやれば、衛人くんといえどもひとたまりもない(この改良版を入手するルートもほしかったんだよな)。でもSF編での衛人くんはだいぶ影が薄かった気がする。

続いてカリスマ澄野編。歪くんの薬の力は認知障害すら飛び越える。いや歪くん自身が試したときは効果がなかったそうだから、すごいのは拓海くんの我駆力か。衛人くんだけではなく特防隊全員に影響するのが難点。

それからノモケバ編。こっちがバケモノ化すれば、衛人くんの目には美しく見える。ドルメン式洗脳を改良するよりもお手軽である。

あとは独裁政権編。人類の敵になってしまえば、自動的に衛人くんが味方になる。これは事前準備が何も要らないので、最もお手軽といえる。

衛人くんには人類滅亡という目標があるが、美しいものを守ることはその目標よりも優先される。どのルートでも一貫してそうなっている。ノモケバ編はもちろん、真相解明編でも、彼は特防隊のことを美しいと感じたからこそ彼らの仲間になろうとする。自分の目が「設定(のバグ)」だったことを知ったから、ではないんだよね。そこがとても衛人くんらしくて好きだ。

サイワイの箱編で、ひとりだけ「設定」の真相を知ってしまった(と考えられる)衛人くんは自殺してしまう。真相解明編の衛人くんと違うのは、その時点の彼には美しいと感じられるものがなかった点だ。衛人くん自身が「設定」情報を隠してしまったからなんだけど。

しかし衛人くんのバグって、本当にバグだったんだろうか? わたしは今も疑っている。最初から「認識障害と独特の価値観を持ったキャラ」として設定されてた可能性はない? 人類が滅ぶリスクを特防隊に紛れ込ませるリスクをとる意味がわからないと言われれば、まったくそのとおりなのだけど。

たとえば神座総合病院側がループすることを前提としてキャラ設定を作っていたとしたら、そのループを打破する可能性のあるキャラクターとしてこういうキャラを作ったという話ならわからなくもないかなあ。衛人くんの選択は世界を分岐させないけど、世界の分岐を生む存在に大きく影響を与えていたことは間違いないから。

現実的に考えれば、移住反対派が異血計画に介入して混入させたバグ説がいちばん説得力があるよね。移住反対派というのが実在するのは間違いなさそうだし。もし本当にそうだったら、ひどすぎて衛人くんが絶望して人類を滅ぼすのに加勢するレベルだけど。人の人生を何だと思ってんだ。

なお、今1周目に今馬くんがSIREIのボディで復活したときの衛人くんの台詞を見て「あっ……」ってなった。

SIREIのボディはバケモノのようには見えないので「安心して見ていられる」わけか。

 

川奈つばさ

デスゲーム編でがっつりメインヒロインとなり、恋しちゃったんだ編まで用意されていて、しかも大半のルートで終盤まで生き残る、かなり優遇されたキャラ。そのエンディングのいくつかを、過子ルートに分けてあげられなかった?

とはいえつばさちゃんはつばさちゃんで好きなので、分けるのはだめ(分けるならどう考えても選択編のエンディングである)。

ゲロ設定がちゃんと使われていたのは1周目だけで、2周目以降はほとんど問題にならなかった。1周目だけ異質すぎるんだよな。やはり1周目までが全部設定なのでは……(まだ言ってる)。しかしメインヒロインがキスするたびにゲロを吐くのでは話が進まないので、これくらいの塩梅がちょうどよかったのかもね。

しかしもし本当にこれが人類を救うために作られた特防隊のキャラだとしたら、こんな戦闘に不向きな設定をつける必要があっただろうか? 特防隊に多様性が求められたのは理解できるが、そもそも体質的に戦闘が困難なキャラって、こんな少人数チームに本当に必要だった?

どうしても、合理的な大人が本気で人類を救うために作ったメンバーとは思えなくて、それ以外の真相があったのではないかと疑ってしまう。まあ「キャラゲーなんで……」と言われればそれまでなんだけど。あと「人間の脳には解明されていない部分が多いため、意図しない性格や性質が発現してしまう」と言われれば、衛人くんの設定含めて「アッハイ」と言うしかないんだけど。

彼女は比較的「普通」のメンタルの女の子として設定されていて、それゆえに自爆を命じると足が止まってしまったりもするのだが、しかしながら素面で(ギィに寄生されていない状態という意味)殺人に走る側のキャラでもある。デスゲーム編の衛人くんと、ヴェシネス編の拓海くんは、つばさちゃんに殺された。

意外と素面で殺人に走るキャラって多くないんだよね。歪くんはあんなに殺りそうなのに殺られるばかりだし、今馬くんも刺したり監禁したりするだけで殺してないし、怠美ちゃんもあんなにデスゲームを渇望していた割に殺す側ではないし。

「人間と認識している相手」を「素面で」「殺意を持って」殺したのは、衛人くん(1周目で比留子さんを)と晶馬くん(推理編で過子ちゃんを)とつばさちゃんだけ?(人が死にすぎなゲームなのでカウント漏れがあるかも)

1周目は「おじいちゃんの工場で機械いじりの楽しさを知った、物作り大好きな女の子」としてあり得る範囲の描写だった。しかし2周目以降は完全にかわえもん無双ゲーである。かわえもんが死亡した時点で「このルートはもうおしめえだ」と思わされるレベル。やはり1周目が異質すぎry

ヴェシネスも言っていたように、カミュンと同じ叡智の異血がつばさちゃんにも流れているのでは。おそらくくららちゃんや歪くんにも。ペルソナシリーズのアナライズ枠キャラのように、戦闘に参加せず情報分析、工作、妨害専門のサポートキャラがいてもよかったかなという気もする。あっそれがSIREIか? 

拓海くんとの恋愛もよかったけど、アダムキューと仄暗い形で心を通わせる描写も好きだった。デスゲーム編での拓海くんともヴェシネス編でのアダムキューとも、共通の罪悪感でつながることになるんだよね。あんなに健康的な外見の子なのに、そういうところが非常に重いの、ギャップがあっていい。

 

丸子楽

楽くんセンターのレアシーン

おそらく「不遇キャラであること」を設定として盛り込まれた不遇キャラ。あらゆる意味で不遇で、気の毒。見せ場らしい見せ場もそこまでなかったし、サイワイの箱編の楽くんルートはドラゴンボールオチだったし。もうちょっと彼の人間性そのものに迫るルートがあってもよかったのではないか。

しかし彼は真相解明編におけるキーパーソン。彼の生存が、真相にたどり着けるか否かを分ける。そういう意味では彼こそが「特異点」であるともいえる。

前回、楽くんが生存しなければ真相解明にたどり着けない理由をこう書いた。

楽くんが死ぬと、SIREIが「死んだのが楽くんみたいな不人気キャラでよかったじゃん」と発言し、これに厄師寺くんがキレた結果がGOTOHの登場である。厄師寺くんが生きていないと選択編に入れない理由にもなっている。また楽くんがいないと真相解明編終盤のイベントラッシュは不可能。

「ハンドレッドライン Hundred Line 最終防衛学園」全エンドクリア後感想 - なぜ面白いのか


わたしは肝心なことを忘れていた。

楽くんが生存していた場合、歪くんにけしかけられて、人工天体と連絡をとらせろと主張して暴れだす。このイベントによってSIREIが「人類の総意シミュレーター」であることが判明する。直後に衛人くんが現れて、この星が地球ではないことを暴露し、あとは雪崩のように真相が解明されていく。生存していたのがくららちゃんだった場合、歪くんに簡単にそそのかされるとは思えないので、やはり一連のイベントは発生しない。

ワザワイの箱編でギィに効くお香が判明したのをSF編で活用できたら、あのときの楽くんと拓海くんも報われたのに!

血みどろ編でのヘイトの溜めっぷりは、やはりわざとやっていたわけではなく素でああいう子だったんだな。わたしは最初期に血みどろ編をやったせいで、彼をちょっと疑ったものである。

神座総合病院側が彼に期待していた役回りは、血縁関係のない複数の人間(本当は思いきり「血縁関係」があるが)による共同生活を円滑に進行させることだったと思われる。だから名簿の登録情報が「家事」(家事というよりは「家政」ではないかと思うが)。実際には、どちらかというと共同生活の和を乱す側だった気がするとか言ったらあかんやつ。

超高校級のイベンターとしての活躍は目を見張るものがあり、意外とチームの士気を高める方面での貢献度は高いはずなのだが、しかしながら「雑に扱ってもいいキャラ」なポジションに甘んじてしまっている。でも本編で不遇な子こそ、ファンコミュニティでは人気が出たりするやつでしょ? むしろそうであってほしい

 

九十九今馬

九十九兄妹がフォーカスされるルートがないのは、反対派によるバグなのか?

過子Gの存在のおかげで今馬くんも含めてだいぶフォーカスされるルートはあったけど、そういうことじゃないんだよ。彼ら本来のキャラクターともっと交流してみたかったんだよ。

今馬くんのストーリー上のピークって、1周目のSIREIのボディで復活したときじゃないかな……。もっとトリックスター的な役回りを期待していたのだが、その役は衛人くんが持っていっちゃったし。

今馬くんの部屋、気持ち悪すぎて噴いちゃった。今馬くんは過子ちゃんのことが好きすぎるのに、「過子ちゃんに嫌われないようにしよう」とは微塵も考えない。あんな部屋に妹ちゃんを招いていたのか。やはり自他の境界線がうまく引けないタイプの子である。今馬くんがうまく妹離れできないから、過子Gが誕生してしまったんだぞ。妹離れしようとするルートの今馬くんは好き。

妹離れしろと言いだした厄師寺くんを刺したり、過子ちゃんが行方不明になったときは希ちゃんを監禁して仲間を脅すことになった(この希ちゃんがギィに寄生されているところがまた……)り、割と簡単に一線を越える子ではある。が、今馬くんは殺意を抱く側の人ではないっぽい。推理編ではだいぶ危うかったが、どうにか押しとどまった。

過子ちゃんは、今馬くんの脳をSIREIのボディに移すことになったとき、もし今馬くんがそのボディに絶望するようなら「自分が今馬を殺してあげる」と言ったけど、そしてもし実際にそういう場面になれば過子は今馬を殺すのだろうけど、逆の立場なら今馬には過子を殺せないと思う。過子が「もう死にたい」と願ったとしても、今馬は自分の手で過子を殺すことはできない気がする……というのがわたしの解釈。

九十九兄妹、特に今馬くんはあやしい部分をズバズバ指摘するキャラなので、もっと「探偵」をバリバリやるルートがほしかったな! 今馬くんの方が探偵適性はありそうなのに、彼はあくまで「助手」ポジションでいようとするのが微笑ましい。

名簿登録情報の「超能力」は結局何だったんだろう。今馬くんの戦闘スタイルのことだったんだろうか? 空を飛んだり、手を触れずに相手を移動させたりできますよっていう。

九十九兄妹だけ中学生設定だったのも、本当に何だったんだろう。今馬くん自身が推測したように、本来はリザーブ的なポジションだったというのは割とありえそう。赤子にもクローンがいたことだし、特防隊にも予備が用意されていたのではないか。

本来の特防隊メンバーの育成中に「何らかのアクシデント」が起こって使えなくなり、急遽九十九兄妹が補充された、みたいな。となると、その本来の特防隊メンバーというのがどんなキャラだったのかが気になるけど。

 

九十九過子

思い返そうとすると、変な料理を食べている場面と過子Gの記憶しか蘇ってこない、ある意味でいちばんの不遇キャラ。しかも言いたいことは大体今馬くんの項目のところで語ってしまった。

今馬くんとの対比で言うならば、過子ちゃんは殺意を抱く側の人だ。1周目のヴェシネスは過子ちゃんにトドメを刺されてたし。そのへんがこう、ギィと相性よかったのかな、と漠然と思っている。

過子ちゃんの名簿登録情報「神秘」は、やはり未来予知のことだったのだろうか。そしてあの未来予知は結局何だったんだろう。「丸子先輩を守らないと真相にたどり着けない」発言から察するに、他TLまで含めたチャートマップを断片的に視ることができる能力ってことかな?

だとしたらやっぱり、このキャラ設定を作った人はループを前提としてない? 戦争ではなくループを終わらせるのが目的のメンバー設定だったのでは?

過子Gが適切なタイミングで適切なTLに移動できたのも、この「神秘」の能力を使ったからだとしたら怖すぎる。絶対に敵に回したらだめな能力でしょ。

神座総合病院側の意図としては、単に観察力と推理力に優れていて、これから起こることを正確に予想できるキャラのつもりだったのかなあ。でもそれを「神秘」とは普通言わないよね? それこそ「推理」とかになるのでは。それにそんな有用なキャラをリザーブにしておくことある? 本来のメンバーも「神秘」だったとか?

多くのプレイヤーが望んでいると思われる過子ルートを実現させるには、まず今馬を妹離れさせなくてはならない。あるいは、今馬に死んでもらうか

しかしむしろ、過子ちゃんの興味を今馬以外に向ける方が難しいかもしれない。過子ちゃんこそ、行動原理のすべてが今馬なんだよな。過子ちゃんは兄離れを望んでいるが、兄離れを強く望むがゆえに兄以外を行動原理とする発想がまだない。

箱編の彼女が箱探しに没頭するのも、「自分はお兄ちゃんにはできないことができる」ことを証明するためだったし。比留子さんやもこちゃんに憧れるようなことを言うのも、今馬くんへのあてつけとまではいかなくても、今馬くんを意識した結果だし。

拓海くんが過子ちゃんルートを望むなら、相当難易度が高いと言わざるを得ない。

 

銀崎晶馬

つばさちゃんのゲロ設定と同じく、晶馬くんのアレルギー設定も、1周目以外ではほぼ出てこなかった。やはり1周目は異質。

猛烈に自己評価が低いのに、美少女にしか許されなさそうな耳つき帽子をかぶっているのが不思議だった。

晶馬くんのキャラが、いちばんルートごとに振れ幅が大きかった気がする。自分の帰りを待つ犬のもとに帰ることが何よりも優先されることかと思いきや、デスゲーム編では自己犠牲を発揮してゲームに参加しないことを選んだし。サイワイの箱ではみんなの盾になって死んでしまうし。そうかと思えば、推理編では過子ちゃんを殺してしまうし。

ただ晶馬くんの自己申告によれば、アレルギー反応が出るのは「ケンカや誰かを殴る」ときらしい。過子ちゃんを殺したときは毒を使ったから、アレルギー反応は抑えられたのかもね。

それでもデスゲーム編の晶馬くんなら、過子ちゃんを殺せと脅されても自分が犠牲になることを選びそうなのに。どちらかと言えば、怠美ちゃんと同じく「自己評価が低いゆえに自己犠牲でしか愛情を示せない」キャラだという印象。

ワザワイの箱編でもレオJr.のせいで大変なことになったけど、あれも晶馬くんが直接誰かに危害を加えたわけではない。

サイワイの箱編で見せた、他者理解をあきらめない姿こそ、本来の晶馬くんの姿ではないかと思ってるんだけどね。同じくサイワイの箱編でフォーカスされた楽くんエンドとの差がすごかったのは印象に残っている。

晶馬くんの振れ幅があまりに大きいので、「各TLはまったく異なるパラレルワールドで、それぞれの世界ごとにキャラの設定も少しずつ違う」説も推したくなってしまう。たぶん担当したライターさんごとにキャラ解釈が少しずつ違うから、メタ的に考えれば本当に「まったく異なるパラレルワールド」が正解なのだろう。

イヴァーとの絡みが多い晶馬くんだが、真相解明編では晶馬くんがイヴァーを殺し、イヴァー編ではイヴァーが晶馬くんを殺すという形で、対称性が保たれている。ここ好き。

でもイヴァーが晶馬くんを殺したルートでは、イヴァーが拓海くんと結ばれるんだよなあ。晶馬くん、浮かばれない。イヴァーがヴェシネスに勝てたのは晶馬くんの異血が力を貸してくれたからこそ、という部分で浮かばれたかな……?

 

という感じで、ひとまず第一メンバーへの感想はこれくらい。長いな!

後半は第二メンバーと、その他のキャラについて書く予定!

 

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