
「パラノマサイト FILE 23 本所七不思議」を一気にクリアした!
群像劇が好きな人にはたまらない群像っぷりで、特に互いに知らなかったキャラ同士が中盤に絡みだす流れは楽しかった!
購入を迷ってこのページに着いた人向けに最初に書いておくと、
このゲームを楽しめそうな人は、
- 群像劇が好き(最初は面識のない人同士が次々と絡む)
- バディものが好き(警察のベテラン&若手バディ、探偵&マダムバディ、女子高生バディの三組がメイン。全部イイ)
- ゲーム内のフレーバーテキストや用語集を読むのが好き(むしろ熟読しないとクリアできないかも)
- 断片的な情報から全体像を想像していくのが好き(最終的には全体像もほぼ語られるけど、その過程でかなり自分で考えられる)
- ゲームならではの体験が好き(これは実際にやって気づいてほしい)
という感じ。
ただしジャンルがホラーなので、かなり怖いシーンもある。いわゆるジャンプスケアにあたるシーンが稀に発生する。わたしは長距離バスの移動中に危うく叫ぶところだった。序盤のアレは心臓が止まるかと思ったし、暗いところでプレイするのは怖すぎた。
とはいえ、ホラーゲームが苦手なわたしでもクリアまでいけた。アクションもスニーキングもないアドベンチャーゲームなので、びっくりするシーンがあったとしても、心停止さえしなければ、心が落ち着いてからゆっくり進めればよい。
なおわたしにはホラーを求めてゲームをする人の気持ちは想像すらできないので、ホラー好きがこのゲームをやって満足するかどうかを書くことはできない。
あえて今までにやったことのあるゲームでプレイフィールが近いものをあげるとすれば、「オブラディン号の帰還」かな? あとはやったのはだいぶ昔だけど「428」とか(新作が楽しみ)。
心臓が弱い人以外で群像劇アドベンチャーゲームを探している人がいたら、とりあえずおすすめできる一本だと言っておこう。
速い人だと10時間前後でクリアできると思うので、シリーズもののドラマを一本見る感じで楽しめるのではないか(わたしはすべてのテキストを舐めるように読んだのでもっとかかった)。
ネタバレなしの感想は以上。
ここから先はエンディングまでのネタバレありで語っていくので、クリア後の方のみどうぞ!

プレイヤーのロール
何から語るべきかな? と思ったけど、まずはここからいこう。
わたしはプレイヤーにロールが与えられているゲームがとても好きだ。最近プレイした中でいうと、アレとか(リンク先ネタバレ注意だけどこれは「パラノマサイト」と同様にゲーム開始時にそれとわかるやつ)。ほかにもこのブログの中で感想を書いたアドベンチャーゲームの中に非常に近い構造を持つゲームがあったが、それは致命的すぎるネタバレになってしまうのでさすがにリンクを貼るのもやめておこう。わたしがはっきりとプレイヤー=主人公ではなくプレイヤーにロールが与えられたゲームをやったのは、「バテンカイトス」が最初だったかなあ。
とにかく冒頭から「案内人」が、キャラクターではなく「プレイヤー」に対して話しかけてくるものだから、これはプレイヤーにロールが与えられるタイプのゲームだ! とそれだけでわくわくした。わたしはメタネタも好きだが、ロールプレイも大好きだ。
となると、当然「わたしに割り振られたロールは何だろう?」という疑問が沸く。この「案内人」はわたしにテレビを見せて何をさせようとしているのか? わたしのことをブラウン管テレビを知らない世代だと思っているのは、もっと若いプレイヤーを想定しているからか? そもそもこの「案内人」とは何なのか? とかいろいろ考えた。
で、わたしが何もしないと死にまくる興家くんを導きながら、これは主人公にヒントを与えながら能力者バトルによるデスゲームを勝ち抜くゲームなのか? とか思っていたわけ(例によって買うと決めたゲームはなるべく情報を入れずに始めた)。

そうしたらこれ。ちょっとゾクっとしちゃった。
いや申し開きをさせてくれ。最初に現れた弓岡さんに対して、まずは様子見しようと思っていたら、興家くんが勝手に殺しちゃったんだよ。だからこのゲームで誰が死ぬかについてはプレイヤーは介入できないのかと思っちゃったんだよ。だから以降、呪い殺す選択肢が出るたびにサクサク殺っちゃったんだよ。
その末に言われた「1人です」でめちゃくちゃ混乱した。自分が殺った回数も覚えてなかったから(この文だけ見ると完全にやばいシリアルキラーだな)。でもたぶん、本当に様子見は最初の1回だけで、あとはサクサク進めようとしていたんだな。
それで改めて理解した。プレイヤー≠キャラクターであり、プレイヤーはキャラクターの外付けドライブとして存在している。キャラクターの意識にほんのり介入することはできるが、キャラクターの意思決定に直接かかわることはできない。
ではこの外付けドライブとしてのプレイヤーとはどのような存在か。興家くんが無事死亡した後は、それを考えることになった。
『禄命簿・陰の書』が話題に出て、この呪いそのものを解くのがゲームの目的だとわかったとき、プレイヤーに与えられたロールがはっきりと見えてテンション上がった。

そこからこの場面にたどり着くまでだいぶかかったけど、ようやくこの直球の問いが発せられたときは渾身のドヤ顔で答えたものである。
このゲーム、途中段階での答え合わせがちょこちょこ入ることで、プレイヤーが話を理解しないまま先に進んでしまうのを防いでくれるのもありがたかったな。「ここまでは確定ってことでいいのね?」と確認しながら進められたから、考えるヒントにもなった。
でね! でね!
プレイヤー=晴曼の意識ってことはわかったんだけど、じゃあ「案内人」は何者? って疑問が残るわけ。これもちゃんと、ゲームの中に答えらしきものがあった。

クリア後に追加された「FILE 23」!
これは「晴曼の意識」ではなく、正しくプレイヤー(カッコつきの「プレイヤー」ではなく)に向けられたメッセージではあるけど、つまり「案内人」がナカゴシってことね!? というかほかに考えられないよね?
津詰さんたちは、ナカゴシに直接会ったことはないと言っていた。ナカゴシとは現世、あるいは物質世界には存在せず、並行世界を回遊できる怪異みたいなものなんだろうか。それとも並行世界を同時に認知できる特殊能力持ちの人間?
ええいスクエニは1日も早くFILE1~22を制作して続編を出せ!!! ナカゴシ案件のすべてを見せろ! ミヲちゃんや津詰さんの活躍も見せろ! リヒタのスピンオフも頼む!!(とめどない要求)
本当に最後の最後まで楽しませてくれるゲームだった。続編やスピンオフが出たら絶対買う。
興家彰吾

あとは思いつくままにメインキャラクター語りをしていこう。
興家くん、最初の主人公として「案内人」に紹介されたと思ったら、いきなり死亡ニュースが出て「とんだネタバレを見せてしまいました」とか言われて、冒頭からすげえフックのゲームだなと思わせてくれた。
プレイヤーが興家くんを導く構成だということがわかり、プレイヤーが介入しなければ「案内人」に見せられたとおり彼が死んでしまうのだと推察し、彼の死を防げばいいのだと思っていたら、プレイヤーの手が届かないところであっさり死んでしまうという強烈なプロローグ。いやあすげえフックのゲームであった。
葉子さんを救えたときはあんなに嬉しかったのになあ!!! あのときは、葉子さんを蘇らせたことの代償として呪主が死ぬみたいな条件があったのかと想像したりしたものである。
自分の手でもう一度葉子さんを殺さなければならないと気づいたときはワクワクしたなあ!!!(サイコパス発言)
ゲームを進めても、人物紹介ページの興家くんの呪影が「???」のままなのがずっと気になっていた。彼は単なる「置いてけ堀」呪主ではないっぽい、と。それがきっと事件の全体像の鍵になっているのだと。同時に葉子さんの呪影も「???」になっていたから、黒幕がいるとしたら葉子さんかなあとも思っていた。
しかし興家くん、あんなにどこにでもいる会社員みたいな顔して出てきたのに、このゲームでいちばんぶっちぎった人物だったなあ。霊感が人並外れて強いっぽいから、呪いの影響も受けやすかったということだったのだろうけど。
呪主になったら殺しまくるし、葉子さんが黒幕だったことがわかったら惜しむことなくさようならだし。しかも死体を放置して。エンディングでは会社をひっくり返しそうな勢いだった。
もはや興家彰吾のスピンオフが出てもおかしくない。むしろ興家くんはシンタイからスカウトされたりするんじゃないか。
福永葉子
葉子さんも呪影が「???」のまま更新されないから、こっちも何かあるぞとずっと思っていた。わたしは最初、葉子さんが根島の子どもなのかと思っていた。アシノが根島の子どもに転生して、成長してこの事件を起こしたのかと。あやめちゃんは露骨にあやしかったので、あっちはブラフでこっちが本命だろうと。
葉子さんは最初から興家くんを殺すつもりで近づいたんだな。晴曼のボディ候補全員殺すマンだったわけだから。ゲーム開始時点の置いてけ堀呪主は葉子さんだった。
興家くんの背後を指さして怯えていたのは、興家くんを振り返らせる(という形で置いてけ堀の発動条件を満たす)ための演技だったのか、それとも晴曼の意識が見えたからだったのか。どっちもあり得そうだけど、やっぱり晴曼の意識が見えたからかなあ。
葉子さんは晴曼の意識に気づいたからこそ「今すぐ殺さなきゃ!」と切り替えた。それまでにも興家くんを殺す機会はなんぼでもあったはずなのだが、それが「今すぐ殺す!」に変化したのは、晴曼の意識が見えたからだったのではないかと。
いや、でもアシノの意識が混入した葉子さんが、人魂が見えたくらいのことであんなに怯えるか? ただの人魂じゃなくて知り合い(アシノにとっての)の人魂だったから驚いたのか? でもその人魂が晴曼のものだと気づいたなら、怯えるのではなく即座にバトルモードになるのでは? アシノも陰陽師だったわけだし、葉子さんも各種文献からそのへんの人間関係を把握した上で興家くんに近づいたわけだし。
そう考えるとやっぱりあれは興家くんを振り返らせて呪い殺すための演技だった……?
結局そこの部分だけ理解しきれていないのだが、とにかく葉子さんの死因が「葉子さんが興家くんを置いてけ堀で呪い殺そうとしたのを晴曼(=送り提灯)の意識に呪詛返しされたこと」だったとわかったのが、このゲームをやっていていちばんウワー!!!! となった部分である。
視点が過去に戻って、葉子さんの前で振り返らないことを選んだ場合、置いてけ堀の呪影は葉子さんが所持したままなので、興家くんは葉子さんと別れた時点で死ぬ。葉子さんが帰りたがらずごねたのは、「興家くんが葉子さんから離れていく」という形にしたかったから。
津詰&エリオ
このバディはたまらなかったな~!
事件は過去に起こったことまで含めてかなり悲惨で悲劇的な内容だったけど、このふたりの会話劇が楽しかったおかげで、プレイ中もそんなに重い気持ちになることはなかった。
津詰さんは、霊感はそこまでないけど霊障への耐性はあるという絶妙な設定が成功している気がする。エリオとの関係性においても、ミヲちゃんとの差別化においても。これで津詰さんまで霊感バリバリだったらミヲちゃんが要らなくなるもんね。
あやめちゃんに呪い殺されるルートでだいぶ持ちこたえてたのも、その耐性のおかげだったのかな。最終的には殺されてしまったが。
津詰さんのキャラクターは本当に好きなのだが、しかし同時にあやめちゃんに対してはだいぶダメな親だったよなという気もする。少なくとも現代人の感覚からすると。
津詰さんからあやめちゃんへの愛情が本物だということはわかるのだが、それがあやめちゃんに正しい形で伝わっていない。
あやめちゃんは自分の命を犠牲にしてでも北斎を蘇らせたいと真剣に考えている。つまり自分の生に価値を見出せずにいる。最低限の自己肯定感を得られないままあの年齢まで育ったのだ。これはやっぱり親の責任が大きいのではないか。
とはいえ、実の娘に呪い殺される結末はあんまりだ。真エンドでは全員生存できたのだから、今度こそきちんとあやめちゃんと向き合って、ふたりで乗り越えてほしい。あやめちゃんは聡い子だが、その聡さに甘えずに、大人として向き合ってほしい。

ちなみに津詰からあやめちゃんへの質問シーンでは、きっとどれから聞いても同じだろうとは思いつつも、津詰さんロールプレイのつもりで人質になっていたことへの心配を真っ先に選んだところ、あやめちゃんからの専用台詞らしきものがあってびっくりした。

序盤にこんなことを言っていたエリオが、津詰さんが死んだときは思いきり泣いてたのが印象的だった。これからも末永く良きバディでいてくれよな。
リヒタ&マダム

春恵さんはもう、このデザインが出てきた時点で大成功が確定したキャラ。この不健康な顔色と表情。常に深淵を覗きこんだような、生命力を感じない瞳に薄い唇。上品そうな佇まいとそれに反してほつれた髪。「ああ、ぶっこわれてるな」「この人はやるだろうな」という説得力がすごい。
このゲームは基本的に立ち絵を並べて展開するオーソドックスなアドベンチャーだが、本当に効果的に顔のアップを使う。というか、全体的にキャラの配置や大小によって効果的に遠近感を演出していて、立ち絵を並べているだけとは思えない場面がたくさんあった。
で、春恵さんはとりわけ顔のアップが多かった印象だ。

さっきと同じ立ち絵なのだけど、どれくらい切り取るかによって印象が変わる。本当にこの表情が好きだったなあ。
春恵さんの置かれた状況は深刻で悲劇的なのだが、リヒタとの会話は妙に面白い。これがシリアスな笑いってやつか。

一方のリヒタは、春恵さんといい感じに対になるデザインだった気がする。健康的で、生命力にあふれていて、唇が厚い。髪はもじゃもじゃなんだけど、春恵さんのようなほつれ方はしていない。
霊感もなく呪主でもない彼が、ひょっとしたらこの世界でいちばん確固とした正義感や倫理観を持っていたのかもしれない。だからこそ警察組織にはいられなかった、みたいな。彼の価値観や倫理観は、時代を数十年先取りしている気はしたが。
つくづく思うのだ。春恵さんはリヒタに依頼してよかったよね。いろいろと間違った選択もした彼女だけど、リヒタを頼ったのは正解だった。
真エンドの世界線では、春恵さんとあやめちゃんが話す機会はない。でもどこかでふたりが出会って、話をしてみてほしい。
「『息子のために何でもできる自分』をアイデンティティにしてはいけない」は、きっと真エンドの世界線のリヒタもどこかで言ってくれる。
でもたぶん春恵さんには、「不完全で守られる必要がある年下の人間」が必要なのだ。
そしてあやめちゃんには、「愛情をわかりやすく示すことができて、場合によっては保護してくれる年上の人間」が必要なのだ。どちらかというとあやめちゃんの方に春恵さんが必要な気がした。
あやめちゃんにとって春恵さんは、「自分の親(津詰にしても根島にしても)」と比べればはるかにマシだと思える親像だったんじゃないか。津詰とは違って、春恵さんは少なくとも子どもへの愛情をわかりやすく示そうとしている。それが自分自身のアイデンティティのためのものだったとしても。
だからこそ、あやめちゃんは春恵さんを生かし、その欺瞞を正そうとした。幼い彼女には、正論パンチでボコる以外の方法はとれなかったけど。
真エンド世界線であやめちゃんと春恵さんが出会ったとしても、命を取りあう関係ではない。だとしたら、互いにもっとずっと穏やかな態度で話せるのではないか。
あやめちゃんは「親」というもの全般への不信感があるだろうし、春恵さんは「子」という存在への渇望と、「この子は自分の子ではない」という意識があるだろう。でもなんかこう、平和な形で出会えていたら、ふたりは互いを補い合える関係になれそうな気がする。わたしの希望を大いに含んでいるけど。
たぶん春恵さんなら、あやめちゃんに「生きていてほしい」と言ってくれるんじゃないかなって。そしてあやめちゃんも春恵さんからの「生きていてほしい」なら聞いてくれるんじゃないかなって。
それを実現させるためには、エリオとリヒタが鍵だな。よし、ふたりがなんとかしてくれ。
やっこちゃん&ミヲちゃん
プレイヤーのロール=晴曼の意識であるということへの最大のヒントが、やっこちゃんである。かわいいよねやっこちゃん。素の状態の彼女がもっと見たかった。

この部分がなかなかわからなくて、「案内人」からの「白石美智代はどこにいた?」という質問に5回も間違えた(もはやあてずっぽうで答えるしかなくて)(選択問題で助かった)。
やっこちゃんに取り憑いてるのは「プレイヤー」だと思っていたから、ミヲちゃんがチラチラ気にしてるのも「プレイヤーの存在」だけだと思ってたんだよね。
白石美智代が本当にかわいそうで、真エンドでも救えなくて、そこは本当にやるせない。手を差し伸べるべき大人たちがどいつもこいつもクソすぎる。子どもにはどうしようもできないよ、こんな事態。「死者はもう蘇らない」「遺された人たちは死者のことを忘れずに、それでも生きていく」が作品のテーマそのものだから、この部分は仕方ないとわかっているのだけど、それでもつらかったなあ。

刑事よりも探偵よりも、プレイヤーにとってありがたい情報をバンバンくれたのがミヲちゃん。このゲームをやった人、全員ミヲちゃんのファンになるでしょ。かわいいし頼りになるし。
でもルート次第で結構死んでるんだよね。学校脱出に失敗するルートもあるし、興家くんルートでもたぶん死んでるだろうし、真エンドにいく直前にも死んでるし。基本的にミヲちゃんのパワーよりも呪影の方が強い。まあミヲちゃんはまだ修行中の身のようだし、年期の入った呪いの方が強いのは当然か。ナカゴシは責任もってミヲちゃんを育成してくれ。
ひとまずキャラに対して思ってるのはそんなところかな。
ゲームのメインとなる時間軸で起こったことが、真エンドではほぼ起こらないのがちょっともったいなく感じるのだけど、それでも全部なかったことにはならないと思っている。エンディングで語られた断片から察するに、おそらく全員に何らかの救いがあるはずだ。
続編があるとしても登場人物はガラっとかわりそうだが、今作のキャラたちがちょっとでも言及されたりするといいなあ。いやミヲちゃんくらいは登場しても……いやそれなら津詰さんも……(際限のない要求)。
