
カロリー満点の大作「オクトパストラベラー0」をクリアして、次は何かサクっと遊べそうなものをと思い、先日のセールで買った Staffer Case を手に取った。原題は Staffer Case なのに、邦題は「ステッパーケース」らしい。なんで??
超能力を使った犯罪を超能力者チームが解決するというADVゲームと聞いて、前から気になっていた。
超能力がある世界だから何でもアリというわけではなく、同僚キャラも容疑者も使える能力が決まっていて、その制限やルールの中で何が起こったのかを解明していくことになる。そういう意味では、能力者バトル的な面白さがある。能力もささやかなものから世界を崩壊させかねないレベルまでさまざまで、ヴァリエーション豊富だった。
また「人口の10%が超能力者の世界」で起こり得る社会問題や派生的な現象がいろいろな形で描写されていて、そういう描写に「ありえるかも」と思わされるのも面白かった。
わたしにとっては、これは「推理もの」というよりは「IF世界の中でさまざまな想像をめぐらせる遊びが楽しめるゲーム」という感じだった。「こういう世界でこういう能力があるなら、その力を使えばこういうことも可能なのでは?」みたいに考えていくことで、実際に正解にたどりつくことができる。それがすごく面白かった。
ゲームとしての難易度はかなり易しい。プレイヤーが自力で真相にたどりつけるように、会話もシステムもうまく誘導してくれる。指摘を間違えてもペナルティはないし、正解がわからなければヒント機能もある。
そもそもこの手のゲームを好むようなプレイヤーであれば、登場人物と各自のスキルが出揃った時点で事件の概要は見通せるように作られているが、細部が徐々に明らかになり、すべての手がかりを自分でつなげていくときの爽快感はなかなかのもの。
ただし主人公の同僚キャラたちが、真剣に知能や記憶力が心配になるレベルでとんちんかんな推理をするので、主人公がすごい! 有能! と評価されても「この中で評価されても……」と微妙な気持ちになってしまう。
まあ同僚が有能だとプレイヤーが何もしなくても事件が解決されてしまうので、仕方ないのだけど。同僚は全員イトノコ刑事だと思うことにした。

作中に「主人公が賢いことを表現するために、周りの人をあまりにも馬鹿みたいに描写している」とかいう記述が出てくるので、製作者もこれについては自覚していると思われる。
(260126追記)
ノートの特殊性(頭の回転の速さ)を演出したいなら、UIの動作や場面転換のための暗転をもっと機敏にすればよかったのでは、とはプレイ中ずっと思っていた。あれがあんなにもっさりでなければ、周囲からのノートの印象がプレイヤーからの印象とそこまで乖離しなかった気がする。
(追記ここまで)
イトノコ刑事といえば、「逆転裁判」シリーズへの露骨すぎるオマージュは笑った。ゲームシステムも逆裁シリーズと共通する部分があるし、逆裁フォロワーのひとつと言えるのかもしれない。
プレイしながら思ったのは、わたしが「レインコード」に期待していたのはこれだったな~ということ。「レインコード」も面白かったのだけど、やっぱり味方側に能力者が複数いるなら、彼らの能力を組み合わせて事件解決したいじゃない!
ネタバレなし感想はこれくらいにして、以下はサイドストーリーや Reborn を含むストーリーのネタバレあり感想。
未プレイの方はここで引き返してください!

Case 1 舞台裏
どういう形で感想を書こうか迷ったが、このゲームは章ごとに書いてみることにする。
ロンドンのステッパー事情について何も知らない主人公の目を通して、この世界の常識を学ぶチュートリアル。

この「管理情報」を眺めるだけでわくわくしちゃう。新キャラの管理情報が出てくる瞬間がいちばん好きだったな。

ゲラーの「管理情報」とこの「痕跡写真」が出てきた時点で、このあやしい四角形を超能力で頭上に落として殺ったんやろなあというのはわかるのだが、そこからだいぶ話が迷走した。
それこそ「逆転裁判」などでも、犯人も手口も大体見えていたとしても、証拠を揃えなければならなかったりして回り道することはよくある。なのでわたしもキャラの誘導に従って、「問われたこと」の答えになるようなものを素直に提示していった。そしたら手がかりの大半を使わないままエンディングを迎えてしまったじゃないの。
そんなんアリかよ!? と呆然としていたら「分岐に戻る」という選択肢が出て、大変テンションが上がった。ひとつのシナリオにつき展開がふたつあるのか!
Case 1でそれを理解したので、以降も全エンディングを回収できるよう、初回はできるだけ素直な回答を心がけた。
この描写を見て、ノートも世界を分岐させるステッパーか何かなのかと思ったのだが、どうやらそうではなかったらしい。でもこの分岐にもちゃんと意味があることが最終的に判明して、そこでもテンションがぶち上がった。

この場面で、背後に「鳥かご」があるのが示唆的である。
これ以降の章も含めて、ステッパーにとって職場は、彼らを閉じ込め管理するための「鳥かご」であると同時に、外界から彼らを守るための「鳥かご」でもある。彼らは自分を守るために、自ら「かごの中の鳥」として暮らすことを選ぶしかない。
そういう「社会の舞台裏」を提示した章だった。
今考えると、Case 1は Case 5の事件の相似である。動機も近いし、「犯人が自分のスキルを周囲に偽っている」のも同じだし、部下が上司に手をかける構図も同じだし。

で、これ。
これはもしかして「逆転裁判」展開か!? と思ったのだが、そうじゃなかった。てっきり Case 2でレッドフィンズがお亡くなりになるものと思ったのに。そうならなくてよかったよ。まあでも「クリスマスに殺人事件が起こる」のは「逆転裁判」オマージュだったのかもしれない。
Case 2 ペットショップ
この章はもう、タイトルの悪意がすごい。事件解決後、章の最後にタイトルがバーンと出るのを見て「うわぁ……」と思った。
「動物を愛している」と言いながら、その動物を犯行に利用する(当然その動物は殺処分される)おぞましさとか、人間も「ペット」扱い(おそらくタイトルに直結したのはこの意味ではないか)して犯行に利用するおぞましさとか、現実のペットショップも、その背後ではペットの繁殖のために倫理的に非難されるようなことをやってたりするところもあるよなあと思わせるところとか、そういういろいろなもやもや全部をひっくるめたタイトルだ。作り手にとっては会心のタイトルだったのではないか。
事件については、モコとホースの管理情報を見比べて、なぜホースの方がモコよりも危険レベルが高いのかを考えたら正解にたどり着いた。オッペンハイマー級のステッパーも操れるとしたら、ホースはエスティエンヌどころかノア級の危険人物な気もする。
ベックの顔や服がドロドロに汚れているのは排水管を通ったからだというのはその場の全員が一目でわかると思うのだが(当人たちにしてみれば臭いもすごかっただろうし)、その点を誰もつっこまないのが不思議だった。

ストーリー的には、テンプレ暴力ヒロインかと思われたテナが、テンプレの外側を見せてくれた点が大きかった。同時にノートもただの常識人ではないところを見せてくれる。
相手を肯定も否定もせず、ただフラットに「知ろうとする」態度こそが、ノートの武器である。まさにレッドフィンズの裏返しの存在。

ちなみに Wurst とはドイツ語でソーセージの意味。
Case 3 魔法使いの部屋
「魔法使いの弟子」じゃなくて「魔法使いの部屋」なんかい! と思わせて、実は「部屋が魔法使い」というオチ。おもしろー!
キャラクターの配置からしてエルが事件の引き金になったのだろうことは推測できるものの、どういう理屈であんなことになったのかは終盤まで読み切れなかった。謎解き的な意味でいちばん苦戦したのが Case 3である。
このへんから、この作品のテーマが「残酷な真実と優しい嘘」「信頼の皮をかぶったディスコミュニケーションと不信の皮をかぶった相互補完」の対比みたいなところにあることがわかってくる。
残酷な真実より優しい嘘を選ぶのは、夫を知ろうとしなかった妻エルであり、ノートを誘導するレッドフィンズであり、レッドフィンズのために嘘をつき続けていたテナやブリアンである。迷いなく残酷な真実を選べてしまう、それはそれで一般的な価値判断からははずれているキャラなのがノート。
信頼の皮をかぶったディスコミュニケーションの末に夫を失ったのがエルであり、テナでありブリアンであり、レッドフィンズである。相手を盲目的に信じることができないゆえに、自分にできる精一杯の力をもって助け合おうとするのがノートだ。
そんなノートという「異物」に影響され、テナやブリアンは変わっていく。「優しい嘘」によってかろうじてつなぎとめられていた捜査課が変質していく。レッドフィンズは、ジョンとも異なるノートのキャラクターに惹かれる自覚を持ちつつも、自分のスタンスを問い続ける。
エルも、後日談を見る限り「残酷な真実」を受けとめて前に進もうとしているようだった。「残酷な真実」は時に人を打ちのめすが、それを受けとめて前に進める人もいる。受けとめきれない人もいる(ジョンである)。

「ステップ販売所は外から見ると解体現場みたいだった」という設定がこんな形で回収されるとは思わんじゃろ。おもしろー。
テナとブリアンが互いを「特別」としている関係は面白い。けど自分のまわりにいる人が実際にこんなことを言いだしたら困る。創作物のストーリーとしてのみ面白い。
とはいえ、この頃にはもう主要キャラ全員に愛着を持っていたので、この中の誰かが被害者になる展開になるなら悲しいなあと思っていた。
Case 4 宿り木
ぶっちぎりで面白かったのが4番目の事件。ダグのスキルと推理小説が鍵なことは初手で提示されたが、ダグが「何」を創り出したのかがなかなかわからなかった。真相に気づいたときのあのゾクっとする感じは、しばらく味わったことがないやつだった。Case 4を味わうためだけにでも、Case 1~3をやる価値がある。
ダグのスキルが鍵だと察した時点で、わたしの関心はハウダニットと並んで「ダグに悪意があったか」に向いた。この展開でダグに悪意があったら(たとえば「推理小説の容疑者になってみたかったから意図的に事件を起こした」みたいなことなら)、ダグは間違いなく「処分」されてしまっただろう。
そうなったら、最悪の場合ノートが闇堕ちして、彼の能力がステッパー管理システムの破壊に向かいかねない。その展開を恐れていたので、そうならずにすんで胸を撫でおろした。まあ悪意がない方が残酷なんだけど。
それにしても「何にも傷つけられない無敵の超能力者」が、完全に管理された監視下で殺されたという事件の引きの強さよ。こんなシチュエーションを思いついた時点で勝利は確定だよ。
「宿り木」というタイトルも、最後に再掲されたときはぞっとした。被害者こそが宿り木だった。あの休憩室が宿り木だったようにミスリードしておいて、その隣の被害者の部屋こそが、あの空間における宿り木だった。
しかしやはり能力者バトルにおける強スキルって、時間系能力と認知操作系能力だよね。たしかにこのふたつには世界をひっくり返しかねないパワーがある。

ちなみにダビデ級のステッパーはノートが4人目。あとひとりは管理官として、残りふたりは誰なんだろう? 続編にでも登場するのだろうか。

このへんのくだりを見ていて、やはりこの世界におけるステッパーは、核兵器の暗喩なのだろうと思わされる。まあ思いきり「オッペンハイマー」だし。意思を持って生活している核兵器がいたらどうする? 無意識のうちに発射されるかもしれない核兵器が近所に住んでいたらどうする? って話だ。ノートくんが目指すのは核兵器廃絶ということになる。
まあ核兵器に意思があろうがなかろうが、それを管理する人間が不完全な意思を持つ存在である以上、この世界が明日、突然終わってしまうかもしれない可能性は現実にも常にある。今この瞬間にも、どこかで人が死んでいってるのもまぎれもない現実である。
フィクションは常に、フィクションという手段を用いて残酷な現実を描くのであるなあ。

急に出てきた一枚絵シーン。このくだりは結構もやもやした。レッドフィンズ、ずるくない? サイコメトラーがこの場で言うべきせりふは「私のすべてを知ってほしい」ではなく「私にすべてを知られることになっても構わないか」じゃないのか。
というか、この時点で彼女はノートに自分の能力のすべてを打ち明けてなかったよね? 本当は視覚情報も読み取れることをまだ言ってなかったよね? これってだまし討ちに近いと思うんだよな。ノートが彼女の手を取ったということは「すべてを知られても構わない」という意志表示だということだともわかるのだけど。
そういうもやもやも、Case 5で彼女の本質を理解してみると、納得に変わった。レッドフィンズは優しいけれどずるい人だし、「私のすべてを知ってほしい」と言いながらノートを信じきれていない。
Case 5 向こう側

本作最大のどんでん返し、課長は本当にただのクソ野郎だった!!!
もうちょっと出来る上司か、もしくは黒幕的なやつかと思ってたよ! でも Case 1後の「捜査課から犠牲者が出る」という予告がこういう形で処理されることになるとはまったく予想してなくて、「なーんだよかった!」と人でなしな感想を抱いてしまった。
ここにきて、仲間の能力をひとりずつ解放していく展開も熱い。
自分たちが容疑者になる展開も、お約束だけど熱い。しかし「仲間にかけられた容疑を晴らすミッションだ! と思ったら、本当に仲間が犯人だったでござる」だったのでつらい。つらいけど、今までのストーリーすべてに納得できる結末である。

彼女の主張もその優しさも理解はできるのだが、しかし彼女の「選択」が何をもたらすのか、今の彼女は本当に理解しているとは言えない。
ノートが来る前の捜査課は、実は早々に真相を見通していたレッドフィンズの誘導によって、「優しい嘘」で事件を終息させていた。その結果、真犯人やその周囲の人がどうなったか、彼女はどれくらい追跡調査しているのだろうか。彼らはその後、幸せになれただろうか。
レッドフィンズの誘導にすべて従うと、12月25日にノートは暗殺される。

レッドフィンズも意識不明ということだったので、この場合課長は生存することになる。
このルートのノートは、事件の優しい解決には概ね満足しているものの、世界のあり方に疑問を感じている。そして、地下のことやプロジェクトのことをある程度知りながら、管理官の期待以上の成果は出せなかった。
まただいぶぼかしてはいるものの、地下での事件について故郷への手紙に書いた上に、世界のあり方に疑問を感じたことまで書いてしまっている。こんなもん絶対検閲されて、危険思想ありと判断されるに決まってる。
暗殺はレッドフィンズのせいではなく指示した人が悪いと言われればまったくそのとおりなのだが、彼女の「選択」は結局こういう結末をもたらすことになるわけだ。
彼女の「選択」は優しいが、しかし問題の根本解決にはならない。問題の先送りにしかなっていないともいえる。そういう意味ではノートや管理官の目指す「廃絶」の方が、正面から問題の解決を目指している分マシである。その方法に倫理的問題はあるが。
とはいえ、「真実」の向こうにあるマナ問題の根本的解決を選択したノートもまた、「優しい嘘」を抱えることになる。

嘘と真実、どちらか「だけ」ですべてが解決するほど、世界は単純ではないということか。

霧深いロンドンだからこそ、の物語だったなあ。
それにしても、ダグが「マナのない世界」の出現を望んだら一発解決な気もするが、加減をちょっと間違うと世界が消滅しかねないんだよな。さらにその場合、ノートたちは一瞬で無職になるし、捜査課の人間関係もリセットされかねない。
やはりダビデがもうひとり必要になるのか。続編が出たらチェックしたいところである。
Reborn

ところで Reborn のこの結末は、レッドフィンズがノートたちの研究に期待しているという意味だろうか?
若返った中尉は、このままいけば数十年後にまた老衰で死にかけて、若返るのを繰り返すことになるので。「ごく普通の死が当たり前のようにやってくる」人生にするなら、マナ現象を消滅させる必要がある。
今の中尉が不死能力発現前に戻っているとしても、スキルは9歳くらいまでに確立するものらしいから、これくらいの年齢ならもうスキル自体は備わってると思うんだよな。だから彼に「普通の死」をもたらすなら、もうスキル自体をなくすしかない気がする。
レッドフィンズもテトラポッド計画に期待する部分があるのなら、職場に戻って手伝えばいいのにと思わなくもないのだが、まあ彼女は今普通に逃亡中の殺人犯だしな。思想の違いも簡単には埋まるまい。
Reborn はレッドフィンズなりの「優しい結末」だったのかもしれないが、この後中尉がどうなるかを考えると、あまり幸せな未来は思い描けない。中尉は息子のことも娘のことも覚えていない。というか、彼らよりも年下になっているのではないか。
戸籍はそのまま使えるとしても、祖国では有名になりすぎてもう暮らせないのでは。若返ったということが公になればまた軍事利用する人がいるだろうし、子どもたちがそれには反対するだろうし。記憶が数十年分飛んだとなれば、人間関係もめちゃくちゃだし技術革新に追いつくのも一苦労で、軍人以外の仕事を探すのも難しいかもしれない。財産はあったのだろうけど、息子が借金を抱えてしまったし。
子どもたちにも本人にもどうすることもできなくなって、結局ロンドンの地下に送られることになるのではないか。中尉のスキルはまずオッペンハイマー扱いだろうし。
Reborn はワンシチュエーションのミステリィとしてとても面白かったが、これを「解決」としていいのか? というもやもやは残った。まあこの引きこそが、続編を期待させるものなのかもしれない。
大作もいいけど、これくらいの長さできっちり盛り上げて終わる作品もいいよね~! もっとやりたい。
しかしわたしのゲームストック(セール中に買ったものの積んだままのやつ)には大作がたくさん……。さあ次は何をやろうかな。
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