「刑事トム・ソーン」シリーズ最新刊(15巻) The Killing Habit を読み終えた。
わたしにはセラピーが必要である。
わたしにとってセラピーとはすなわち書くことである。
まとまりのない文をぐだぐだと書くことになりそうだが、まとまりのない文をぐだぐだと書くことが目的なのだから仕方ない。
刑事二コラ・タナーの魅力と、彼女にふりかかった過酷すぎる展開について語る。
The Killing Habit だけではなく14巻 Love Like Blood のネタバレも全開につき注意。
ビリンガム先生、ニコラさんを幸せにしてあげて!!!
Love Like Blood を読んだときからずっとそう思っていた。
二コラさんは自分にも他人にも厳しくて、ルールを守ること、感情を理性でコントロールすることを第一に考える人で、ルールなにそれおいしいの的なトムやフィルくんとは対照的なキャラクター。
でも同棲中のガールフレンド(二コラさんはレズビアン)、スーザンのことは大好きで、彼女のちょっとだらしないところはたしなめながらも幸せに暮らしていた。
なのに、Love Like Blood の冒頭でそのスーザンが殺されてしまう。かなりひどい方法で。しかも第一発見者は二コラさん自身。
事件の捜査からはずされてしまう二コラさん。それが「ルール」だから仕方ない。
そこで彼女は、ルールなにそれおいしいの的なトム(以前、別の事件で知り合っていた)に事件解決をお願いするのだった……というのが前作のあらすじ。
二コラさんがスーザンのことを思い出す描写がいちいち胸にくるのだ。
二コラさんの車の中に残されたポテトチップの空き袋。
二コラさんがゴミを車に放置するはずがないから、これはスーザンが捨てたもの。彼女のそういうルーズなところはなおしてほしかった二コラさんだけど、この袋をすぐに捨てることはできなくて、それはしばらくそのままになっている。
彼女がそこにいた証を消すことができない二コラさん。
この場面がいちばん泣いたかな……。
家の中でも何をしていてもスーザンのことを思い出す二コラさん。
スーザンの夢を見て泣きながら目覚める二コラさん。
スーザンが飼い始めてスーザンに懐いていたねこちゃんを大切にしようと決める二コラさん。
二コラさんに懐き始めるねこちゃん。
だが二コラさんがは事件解決の糸口を掴めないまま、今度は被害者になってしまう。
彼女とスーザンが住んでいた家が、まだスーザンの遺品も思い出もたくさん残っていた家が、放火されたのである。
ねこちゃんに起こされて火事に気付いたにこらさんは、二階の窓を破ってねこちゃんと一緒に脱出する。
だが二階の窓から飛び降りて無事ですむわけもなく、彼女は重傷を負う。
鎮痛用のモルヒネで眠る間、彼女は夢の中でスーザンとほんのひととき再会するのだった……。
泣くわ!!!!
もうね、二コラさんは頼むからこのあと幸せになって!! お願い!!
(※犯人は無事捕まりました)
The Bones Beneath でぼろぼろにされてしまったフィルくんが、次の Time of Death でリアムと出会ったことを考えると、きっと The Killing Habit では二コラさんに何かいいことがある――そんなふうに考えていた時期がわたしにもありました。
びりんがむ先生!!! びりんがむ先生!!!!!
話が違う! 違うよおおおお!!!!!!
さらなる事件が二コラさんを襲う!
The Killing Habit の冒頭で、二コラさんがトムと同じ職場に配属されたことが判明する。
物理的にも距離が近くなり、トムに気を許しているし彼と信頼関係を築けている二コラさんを見て、これは良い兆候だと思ったりした。
スーザンと暮らしていた家は一人暮らしには広すぎるからと、新しい物件を探し始める二コラさん。トムに同行を頼み、意見を言ってもらおうとする……のだが、こういうことにはゆーすれすなトム、当然ろくな意見を言えない(「俺がいたって役に立たないって言ったじゃん……」とぶつぶつ言っている)。
だが雲行きがだんだんあやしくなる。
スーザンの事件と放火事件から間もないうちに仕事に復帰した二コラさんに、彼女は本当に大丈夫なのかと疑問視する声があった。
もちろん二コラさんはもう大丈夫だと主張するし、今回の事件の重要な糸口を発見する役割を担う。トムにはできない方法で、一見無関係な事件と事件のつながりを見つけることができるのが二コラさんだ。
だが彼女は一人のときにたびたびスーザンを思い出し、これから一人で生きていくことへの不安で泣いてしまう。
明らかに大丈夫じゃない。
なのに彼女は大丈夫じゃないことをうまく隠せる程度には強かった。
仕事もこなせる。他人に泣き顔は見せない。
感情を理性でコントロールできることが、彼女のプライドを支えている部分もきっとあったのだろう。
なのに!!!
トムが好きなスパーズのホームスタジアムに近いところにある物件を見に行って、ここに住んだらトムが喜ぶかな、なんて考えていたのに!!!
それを読むわたしも、トムとフィルくんがスタジアムに観戦に行った帰りに二コラさんの家に寄ってお茶して帰るみたいな日が来るといいな、なんて想像していたのに!!!!
その物件の中で、二コラさんは今回の事件の犯人に襲われる。
彼女は拘束されて、犯人に髪をずたずたに切られてしまう。
危ういところでトムが助けに入り、犯人を気絶させて手錠で繋いでおくことに成功したのだが。
トムが部屋を離れた隙に、二コラさんが暖炉の火かき棒で犯人を撲殺してしまった。
彼女は大丈夫じゃなかった。
大丈夫じゃなかったところにこの犯人に襲われて、ぽっきり折れてしまったのだろう……とトムは思っている。
手錠で繋がれた上に意識のない人に凶器をもって殴りかかったとあっては、二コラさんが罪に問われるのは間違いない。
でもトムはそんな事態を許容できなかった。
二コラさんが、これまでトムのそばで捜査に協力してくれた二コラさん(自分の方の事件も大変なことになっているのに)が、トムにとって同僚というだけでなく大切な友人の一人になっていた二コラさんが、五人の女性を殺した犯人を殺してしまったからといって、刑務所送りになることなんて許容できなかった。
だからトムは現場を工作した。
犯人は手錠をかけられていなかったことにした(気絶したところに手錠をかけたから、手首に跡も残っていない)。
気絶したと思って油断したトムに、鋏を持って襲いかかってきたことにした。
二コラさんはトムを守るために、咄嗟に近くにあった棒を手に取った。
正当防衛。そういうことにした。
それだけじゃない。
トムはフィルくんにも協力を頼んだ。
犯人の頭蓋骨が異常に薄かったことも死因に影響した、ということにしてもらった。もしかすると、死体に見られたそのほかのあやしい部分にも全部目をつぶってもらったのかもしれない。
フィルくんはトムの共犯者になることを選んだ。
こうして犯人は死に、二コラさんは逮捕されることもなく、事件は一応の解決を見た。
おわかりいただけただろうか
わたしにはセラピーが必要である。
二コラさんにもトムにも必要である。
だが二人ともセラピーは断ったらしい。いやそこは受けてくれ! 頼むから!
もうこの結末はつらすぎる。
誰よりもルールを守ることを大切にしていた二コラさんが真正面からルール破りをしてしまったこと。
トムにまでルールを破らせてしまったこと。
おそらくフィルくんの協力もあったのだと気づいていること。
何よりも、二コラさん自身が理性によって行動をコントロールできなかったこと。
あれは感情に従ってしまった行動ではなかったのかもしれない。むしろ無意識のうちに殴ってしまったように見えた。
でも「感情をコントロール下における人なのか、それとも感情に支配される人なのか」ということを重視していた二コラさんが、自分自身の行動にどれほどショックを受けたかと思うとやりきれない。
どうにか保っていたプライドが崩れてしまったら。
これからずっと嘘をつき続けなければならないことに彼女が耐えられなくなってしまったら。
二コラさんが幸せになれる未来が見えないです、びりんがむ先生……!!!
どうなるんですか!!!
びりんがむ先生、お願いだから二コラさんを幸せにして!!!!
もうこれ以上彼女を泣かせないで!!!
お願いだから……。
トムがフィルくんを巻き込んで事件の隠蔽をする流れは、ドラマ版 Thorne に通じるものがある。
15巻まできて、原作アースはドラマ版アースに収束するというのか。
今回のトムはドラマ版のトムと違って、自分を守るためではなく100%二コラさんを守るために行動した。
フィルくんもフィルくんで、原作アースの彼もまた、トムに頼まれたら共犯になってくれる人だった。
ニコラさんはフィルくんに会うたびにビンタしたがってるというのに、特に以前はフィルくんに対してすごく冷たかったみたいなのに、フィルくんは以前ニコラさんのことをホモフォビアかと思っていたのに、トムから事情を聞いたら迷わず協力してくれた。
The Killing Habit のフィルくんはリアムと幸せそうで、彼とずっと一緒にいたいからジムに通って健康を保とうとしていたり、リアムが夕食を作ってくれているからとパブから早めに帰ったり、将来にとても希望が感じられた。
そんなフィルくんが、リアムにも打ち明けられない秘密を抱えてしまったことがつらい。
二コラさんもトムもフィルくんも、重すぎる秘密を抱えることになった。
彼らが幸せになれる日は来るのだろうか。
自分の推しキャラを散々な目にあわせることに定評のあるびりんがむ先生、わたしは次回作に希望を持っていいんでしょうか。
Thorne シリーズは大体1年に1冊ペースで出ているため、おそらく次回作は最短でも来年の今の時期。
待てないよおおおお!!!
とりあえず次は3巻を読もう……(涙で枕を濡らしながら)