本日は前回の続きで、「刑事コロンボ」S2より「偶像のレクイエム」の感想。
ネタバレあり。
「ロンドンの傘」感想はこちらから。
動機がホラー
この話、犯人がコロンボにとって憧れの女優アンで、ウキウキと彼女に会うコロンボの様子がほほえましく面白い回ではあるのだが、その犯人の設定が割とホラーである。
そしてその設定こそがこの事件の真の動機であり、この話のオチとなる。
いわゆる倒叙ものの面白さとは、一見完璧に思えた犯行にどのような綻びがあったのかを、探偵役と一緒に考えられるという点だ。
しかしそれと並行してさらに別の謎が与えられていることがあり、こういう場合は大抵普段の話よりも面白くなる。
「偶像のレクイエム」の場合、作家ではなく秘書が死んだのはなぜか、そしてアンの真の動機は何かという謎があった。
この動機に思い当たったとき、かなりぞっとした。
アンの庭の噴水の下には何年も前に殺した彼女の夫の死体が埋めてある。そのことを知る秘書が、ゴシップ作家に秘密をばらすのではないかと彼女は恐れた。殺人のターゲットは作家ではなく秘書である。
このことは作中でかなりさらりと語られたのだが、わたしはこの設定はかなりホラーだと感じた。
自分が殺した夫の死体を、自宅の庭のリビングからいつでも見えるところに埋めるという発想。
しかもその自宅は仕事場(撮影所)の敷地内にあるということ。
死体を埋めた上に噴水を置き、まわりに花を植えて飾り付けたうえで毎日それを眺めていたこと。
家が撮影所の中にあることから来客も頻繁にあり、皆がその噴水を見ていたと思われること。
そんな生活を何年も続けていたこと。
そしてその秘密を何年も秘書と共有してきたということ。
秘書が秘密をばらそうとしていたからではなく、ばらす「可能性が芽生えた」から殺したということ。
どれもこれも相当なホラーではなかろうか。
最近のドラマでいうと「ハンニバル」に出演できるほどのサイコパスではないが、「ベイツモーテル」の世界になら登場してもおかしくないレベルである。
この話を現代的な視点で作り直したら、上質なサイコホラーになるかもしれない。
コロンボの憧れの人は大体犯人
コロンボはかなりのミーハーだが、気の毒なことに彼が「憧れの人」と出会うのは、その「憧れの人」を自ら逮捕するフラグである。
この回では犯人がコロンボの若い頃からの憧れの女優であった。
Huluの作品解説にわざわざ「コロンボにとっては青春時代の憧れのスターであり、初対面の時は感激のあまり、カミさんに電話してしまう場面は必見」と(変な日本語で)書かれるほど。
アンの家から自宅に電話して「今どこからかけてると思う?」とはしゃぐコロンボに胸が痛む。
しかしこの話で最も印象的だったのは、アンが犯人だとコロンボが気づくシーン。
アンの昔の映画を見ていて、彼女がかつて夫を殺したこと、それこそが事件の動機だったことに気づく場面だ。
コロンボのセリフはまったくなく、表情の変化のみでそれが表現されていた。
はじめははっと気づいて、それから困惑したように天を仰ぎ、壁にかかったアンの夫の写真を眺め、悩ましげに額に手をあて、最後に悲しそうに首を振る。
その間ずっと映画の中のアンのセリフだけが流れ続ける(ひょっとするとアン自身も、夫を殺した際のトリックをこの映画から思いついたのかもしれない)。
コロンボが犯人に気づく瞬間のシーンをこれだけじっくり見せるのは珍しい。
それだけ彼にとってショックな事件だったのだろう。
わたしにとっても印象深い回となった。
【おまけ】
「刑事コロンボ」脚本家ウィリアム・リンクが新作を書いたそうで。
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