各所で良作と名高い「レイジングループ」、とうとうわたしもプレイしてみた。
確かに評判通り、システムとシナリオががっちりかみ合った面白いゲームだった。
主人公(画像下の人)に大変好感が持てる上に、彼がサクサク話を進めてくれるのでプレイヤーもストレスがない。京極堂か桑原崇っぽいな~とか戯言使いのいーちゃんをソフトにした感じだな~とか思ったが、要するに90年代から連なる日本のサブカル文化の文脈上のあのへんにある伝統芸能のひとつに位置するものとみていいと思う。そういうのにがっつり浸かってきた自分が、それでもがっつり楽しめたのだから確かに良作。
もしあのあたりが未履修な人がプレイすると、きっとかなり刺激的だろうと思われる。迷ってないですぐやろう!
以下はネタバレを含むキャラ語り。キャラが多いので主人公+ヒロイン勢のみで!
房石陽明
ソフトな戯言遣いだと思ってたら本業が○○○だった。途中まで割と本気で詐欺師か何かだと思っていたぞ! 「ホワイトカラー」のニールみたいな感じの。
このゲームがサクサク進行なのは9割以上彼のおかげ。話が早くて助かるぜ。
機知ルートをプレイしながら「陽明さんがおおかみになったところが見たい~!」と思っていたら、すんなり実現したので「このシナリオライターさんはプレイヤーの見たいものがわかっている……!」と歓喜したものである。
終盤、複数のルートをまたいで死に戻りしまくる際、各ルートごとのヒロインに矛盾なく対応できるあたりはすごい。プレイヤーには分岐チャートがあるからまだわかりやすいが、彼にはそんなものは見えていないわけで。
自分で自分のことを人格破綻者のように言う彼だが、そして実際にいわゆる「常人」の感覚からはいささかはずれている彼だが、根本的な人の良さが滲み出てしまっているのが魅力的でもあり隙でもある(正確にはシナリオライターの人の良さが透けて見えるというか。シナリオライターさんがプレイヤーに悪意をぶつけきれていないというか)。もっとぶっちぎった主人公だったらもっと面白かったんだけど……! と惜しく思っていたりする。
ただし今までわたしが触れてきた「もっとぶっちぎった主人公」のほとんどが小説媒体のもの。ゲームという媒体でこういうキャラクターを構築したという功績はもっと広まってほしい。
彼女との最後の対決では、あの子の助けがなくても勝てただろうと思っている(正直あのくだりは、この話には要らなかったんじゃないかな。陽明だけの力で勝った方がすっきりした気がする)。陽明の仕掛けた罠が明かされたときは、その手口の鮮やかさにニヤニヤが止まらなった。汚いさすが陽明汚い。
恐怖と愉悦を区別できないというキャラ特性はかなり面白い。実際、そういう人は現実に少なからず存在しているように思う。今までそういう特徴を言語化できずにいたので、このセリフを見た瞬間「これだ……!」と感じた。
自分もある種の「恐怖」と愉悦を区別できないと言えるのかもしれない。だからこそこういうゲームを喜んでプレイしているわけで。このあたりは、キャラクターをとびこえてプレイヤーに刺さる部分だった。
二周目も「○○○」というセリフを探してじっくり楽しめる、彼は本当に優秀な主人公。
能里清之介
えっ、彼はヒロイン枠ですよね? 清之助ルートがない? どうして? あ、清之助エンド(一緒に死亡)はあったか。
最初の印象が悪いだけに、後半の好感度のうなぎのぼりっぷりがすごかった。
能里の生まれでなければ、平凡だけどそこそこ幸せな人生を贈れたような気もする。それだと李花子さんとは出会えないけれども。
あのあと、彼はそのうち李花子さんともっと近しい関係になれるのだろうか。
何年かかかるのかもしれないし、李花子さんのあの様子だと意外と半年後くらいにはころっと仲良くなっているかもしれない気もする。
彼には幸せになってほしい。
美佐峰美辻
えっどうして美辻さんルートがないんですか?
むしろひつじさんルートがほしかったんですが?
毎回ひつじさんに会うのを楽しみに陽明を死なせていたプレイヤーは少なからずいたはずだ。
「待ってろ」→「あったわ」で美辻さんルートかひつじさんルートが開拓されてくれないかな。
醸田近望
えっどうしてもっちールートがry
彼は本当に攻略したかったな~。陽明と並んで好きなキャラ。
もっちーも死に戻り能力持ちだろ! と思っていたのだが、彼はただの天才だったというオチも好き。さすがもっちー! ジョーカーだらけの宴の中でも、彼はとびきりのジョーカーだった。
村がああなった後、彼はどうするのかな。日本の大学は彼には確かに合わなそう。いずれにしても春ちゃんと一緒に生きてくれるといいな。
芹沢千枝実
清之助氏とは逆に、プレイするにつれて好感度の下がっていく恐るべきヒロイン。これはシナリオの割を食った部分もあるとはいえ。
特に暴露モードでのヤバさは群を抜いている。こいつ、世に放ったらアカンレベルでは。暴力系ヒロインの頂点に立つべき人かもしれない。
神殺しのジンクスを手に入れてしまったようなので、これからラノベ主人公的な活躍を見せてくれるようになるのかも。
回松李花子
暴露モードでのひつじさんとのやりとりが楽しい。彼女がいろいろ抜けていたおかげで陽明はエンディングまでたどりつけたのであるなあ。
特に最初の黄泉ルートでの彼女の最期(?)については謎が多かったため、暴露モードで補完されたのはありがたかった。
しかし性的虐待の被害者を男好きキャラに仕立てるのは、やや現代的とは言えない感覚のような。製作段階でそこには誰もつっこまなかったのだろうか。クリエイターさんたちがこれからもクリエイターであり続けるのなら、感性のアップデートはし続けなければならないと思う。
巻島春
清之介同様、好感度の上がっていくヒロイン。ヒロインの中ではこの子がいちばん好きかな。むじな様も愛らしくて好きではあるが、陽明にもらったプレゼントを大事に持っている春ちゃんがやはり好きだ。そのプレゼントを本当に喜んでいたことがわかったときはずきゅーんときてしまった。
春ちゃんは陽明に「悪」を教えられることによって、パラダイムシフト的な経験をしたのだろう。高校生の彼女にとっては非常に強烈なインパクトのある経験だったはず。
「悪」になることで初めて泣けた春ちゃんの描写もとてもよかった。
春ちゃんに対して「汚い大人」であろうとする陽明さんもよかった。やっぱり暗黒ルート、胃が痛くなりつつも(橋本さんが強すぎるんだよお!)いちばん好きだ。
【追記】めー子
大事なことを書き忘れていた。
わたしはこの子が登場するなり、この子をいつどの段階で惨殺するかでシナリオのガチ度が測れそうだと思った。ループのどこかの段階で子供が惨殺されることで、宴に安全圏はないこと、この村の異常性を端的に示せるし、陽明やプレイヤーを奮起させる起爆剤になるのだろうと。
この子が最序盤の被害者になってくれたら割とガチのやつだなと思っていたのだが、結局最後まで被害者になることがなく、これに関してはちょっとというか相当拍子抜けだった。殺されないなら何のために存在しているのかよくわからなかったのだが(宴の中にコントロールできない要因がいる点は、面白いのだけどどちらかというとストレス源になるし)、クリア後に別作品からのクロスオーバーだと知った。だから殺せなかったのか! いやそんな事情知らんわ! やっぱりデスゲームに安全圏を設けるのは、緊張感を奪ってしまう気がする。
(追記ここまで)
……という感じで、やや突っこみたい部分はありつつも全体としてはとても楽しめたゲームだった。なんといっても一周目は睡眠時間を削って三日ほどで一気にクリアしてしまったくらい。プレイ中に雷雨になって、部屋の電気を消したまま遊んでいたわたしは大変肝を冷やしたが(ちょうど黄泉ルートの李花子さんがアレになっちゃうあたりで)、今思えばなかなか理想的なプレイ環境だったように思う。
どうやら新作も出たようなので、これもいずれ試してみたいところだ。