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もやもやするのはきっと正しい「ザ・ワイヤー」S1感想

 

「TRUE DETECTIVE」S1の次に見ていたのは「The Wire」。

これも評価が高いドラマとしてあちこちで名前を聞いていたので、わたしの中の「そのうち見るリスト」に入っていたのだが、この作品に「ゲームオブスローンズ」のリトルフィンガー役エイダン・ギレンが出ていると知って「すぐ見るリスト」に移動した。現在S2まで見終えたところである(リトルフィンガーが出ているのはS3かららしい)。

そんなわけで今日はS1の感想。詳しいネタバレはなし。

 「The Wire」感想目次はこちらから

 

 

こんな人におすすめ

  • リアル路線の刑事ドラマが見たい
  • 腰を据えて長いシナリオを楽しみたい

  • アメリカの社会問題に興味がある
  • アメリカ英語のリスニングに自信がある

 

 

こんなのが苦手な人は注意

  • グロあり(多少ぼかされていたりはするが、それでも気分の悪くなる死体はときどき出る)
  • 話を全部説明されないと理解・納得できない
  • Fワード多すぎ
  • 見た後もやもやする、まったくすっきりしない

 

断片的なシーンでつなぐ多様な人間関係

S1をざっと見た印象として、このドラマは1シーンがあまり長くない(計ったわけではないのでただの印象だが)。

会話が途中から始まり途中で終わることも珍しくないし、そのシーンを見たときにはどんな意味のシーンなのかわからないこともある。

登場人物は多い。

S1の場合は「警察」と「麻薬売人」という陣営に大まかに分けることはできるが、警察の側には上層部や各部署の職員、その家族らが配置されており、売人側にも元締めと下っ端、中間管理職、彼らの家族やお抱え弁護士、彼らと対立するグループらがいて、さらに両方に顔のきくアウトローな情報屋がいたりする。彼らは同じ陣営の中でも必ずしも味方同士というわけではなく、互いにライバル意識があったり場合によっては殺しあったりと一筋縄ではいかない。

視聴者は断片的な情報をつないでそれらの人間関係を把握することになるが、最初はかなり苦労した。

わたしはそもそも人の顔を覚えるのが苦手なため、ドラマの序盤は服装や言葉遣いの違いからキャラを見分けることが多い。

ところがこのドラマ、警察グループは大体同じような服装だし(キーマだけはすぐ覚えた)、売人側も大体同じような服装だし、みんな似たような髪型だし、さらにこれだけ黒人がメインキャラにたくさん登場するドラマは初めて見るのだが、慣れていないのもあって黒人キャラを見分けるのが難しい(何しろ全員体格がよくて髪の色も同じで髪型も似ているので「太ってて髪のない男性」「細身で金髪」「筋肉質でヒゲ」みたいな見分け方ができない)。

それから言葉遣いもそれぞれの陣営の中では似たようなものだ。言葉遣いに関して言うと、このドラマはFワード(およびそれに類する言葉)率が高すぎである。ふぁっく、しっと、あすほーるとその派生語を含む文が全体の半分ではないかと思うくらいだ(実際にはそこまでではないのだろうが、体感とはとかくそうしたものである)。

警察も上司にあたる人はもう少しきれいな言葉を使えばいいと思うのだが、麻薬売人よりむしろ警察内部の方が言葉が乱れてないか? と感じることもしばしばだ(そして乱れているのは言葉だけではない)。登場人物(ほとんどはあまり教養のないキャラとして描かれている)の語彙の少なさを表しているのかもしれないが、字幕がこれらの言葉を場面に沿うように訳しわけているのを見て、その苦労がしのばれた。

また全体的に発音は訛りが強く(「TRUE DETECTIVE」よりさらにわかりにくいと感じた)麻薬関係、警察関係の隠語も多いため、字幕なしでこのドラマを見るのは相当難しいと思われる(ある意味ふぁっく、しっと、あすほーるがわかれば半分くらいは理解できるということでもあるが)。

 

というわけで序盤は少々苦労したものの、一通りキャラの関係と話の筋書きを把握してしまうとすっかり話に入りこめた。

なおわたしのお気に入りキャラはレスター、ディアンジェロ、オマール、S2からのキャラではラッセル、ブラザー・ムーゾンあたりである。

 

「盗聴」について

ドラマタイトル「The Wire」とは「盗聴」という意味である。

これがこのドラマのメインとなる捜査法なのだが、警察機構とはいえむやみやたらと盗聴できるわけではない。

さまざまな手続きを踏んで、物語の中盤でやっと盗聴が始まることになる。

盗聴が始まる頃には視聴者は登場人物の関係性も大体把握できており、そこからいよいよ本題というわけだ。

話もそのあたりから盛り上がってくる。

 

しかしS1作成は2002年のことで、もう15年近く前である。

装備の古さなどは否めない。

使っているOSは Windows 98 …? などと考え始めてはいけない。

いや、むしろこのドラマはもうすでに「時代劇」として見るべきものなのかもしれない。

わたしの感覚としては、携帯電話の登場しないドラマはもう「時代劇」である。

主人公がなぜ携帯電話で連絡をとらないのかと何度も思うことがあったが、主人公は携帯電話を持っていないのである(まったく登場しないわけではない)。

2002年なら日本では携帯電話がかなり普及していたはずだが、ボルチモア(詳しくは後述)という町では事情が異なったのかもしれない。

現在のボルチモアは人口も下げ止まったとかで、ドラマ当時の様子とはまた違っているのだろう。

そう思うと、これはこれで貴重な「記録」でもあると言える。

 

アメリカ社会の抱える問題

このドラマはしばしば「リアル」だと言われる。

たとえば警察内部の腐敗(それはもうすごい腐り方である)などは、多かれ少なかれ日本にもあるのだろうと想像できる。

また登場人物を「善人」「悪人」で色分けすることはない。どのキャラにもいい面と悪い面が描かれている。

捜査の流れやその方法なども、派手さはあまりないが緻密な取材に基づいているのだろうと思わせられる。

そういう意味では「リアル」さは誰にでも感じられるだろう。

 

しかし、アメリカ社会に疎いわたしにはあまりぴんとこない部分もある。

たとえば舞台であるボルチモアの名を聞いて、治安が非常に悪く貧困層が多く、麻薬がはびこり、黒人が多くて白人は出世しにくく、さびれつつある(ドラマ放映の2002年当時)というイメージをすぐに描ける日本人はあまり多くないのではないだろうか。これらのイメージを、わたしはドラマを見ながら徐々に獲得していった。最初からこういった知識のある人ならばもっとすんなり話に入れるだろう。

ボルチモア - Wikipedia

ドラマS1を見てからwikipediaで町の説明を見ると、ドラマで描かれていた問題がなぞられている(そして今wikipediaで知ったのだが、エドガー・アラン・ポーボルチモアで活動していたらしい)。

またこちらのページも、ドラマで描かれる「ボルチモア」について解説してくれている。

海外ドラマ専門チャンネル スーパー!ドラマTV : THE WIRE/ザ・ワイヤー

先にこういった背景を知識として持っておくと、ドラマにも入り込みやすいかもしれない。

 

このドラマの目的の一つは「問題提起」なのであろう。

だからきっと視聴者をすっきりさせてはいけないのだ。

もやもやを残す形で終わり、視聴者自身に社会の抱える問題について考えてもらうことこそ、このドラマの目指すところだ。

そういう意味では、S1はベストなエンディングだった。このドラマはもやもやさせるべくしてもやもやさせているのだ。

わたしは数日もやもやし続け、もやもやしながらもS2を見始めた。

しかし、それにしたってこんな終わり方……しかもS2の終わり方はもっと……

(ぶつぶつ言いながらS3を見始める)

(なんだかんだで面白い、よくできた「ドラマ」でもある)

 

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