前回に引き続き、「The Wire」S3の感想。
やっとリトルフィンガーの中の人が見られる! S1とS2の悪役は相当悪い奴だったし、きっとこのキャラがS3の悪役なのだろう、なになにボルティモアの野心的な若手政治家、ほうほうこれは悪そうだ! きっとボルティモアの悪事を裏で取りしきる悪徳政治家で、あれやこれやの黒幕なのだろう、わくわく! と思っていたわけなのだが…
以下、ネタバレあり。「ゲームオブスローンズ」への言及あり。
悪役じゃない……だと……
S3にして最大の衝撃を受けた。
トミー(リトルフィンガーの中の人、エイダン・ギレン)まさかのかなりいい政治家だった。
いや「いい政治家」まで言うと言いすぎかもしれない。「24」のデイビッド・パーマー大統領みたいなキャラは「The Wire」には登場しない。
トミーは現実的な政治家で、のし上がるためにいろいろな人を利用するし、浮気もするし、信頼されていた人を裏切ることもある。
しかし「ボルティモアをなんとかしたい」という気持ちは本物のようだった。
犯罪を減らし、子供たちに適切な教育を受けさせ、市民にとって住みよい町をつくる。
彼の目指すところは確かにそれだった。
ごめんなさい。
最終回近くまで「それは表向きのポーズで、裏では麻薬業界の黒幕だったりするよね? わかってるわかってる」と思ってました。
まさか「ゲームオブスローンズ」の弊害がこんなところに出るとは。
エイダン・ギレンが政治家役だというから、もう絶対悪の親玉で、難ならボルティモアの悪事は全部この人が原因、くらいのつもりで見ていたのだが、そういえばここはボルティモアであってウェスタロスではなかった(治安の悪さについて言えばどっこいどっこいである)。
というわけでものすごい先入観のせいで、作り手の意識していないところで勝手に「意外すぎる結末」に驚くことになってしまったが、総じてS3も面白かった。
ストリンガーとエイヴォンの決別
S3最大の見どころはやはりこれだろう。上に貼ったS3のDVD boxパッケージもこの二人をメインに置いている(このパッケージ、かなり好きだ)。
S2では二人の考え方の相違がはっきりと明らかになり、エイヴォンが出所すれば対立は避けられないだろうと思わせた。
S3中盤でエイヴォンが出所し(早すぎ!)、二人の関係は次第に緊張感が増していく。
いずれは世界を相手に「ビジネス」をしようと考えるストリンガーと、あくまで「無法者」としてボルティモアの麻薬界に君臨したいエイヴォン。ストリンガーの方が賢そうだし一枚上手かと思わせておいて、結局勝者はエイヴォン。
ただしこれはエイヴォンの勝利というよりは、ムーゾンとオマールの勝利というべきかもしれない。
S2の伏線を見事に回収した熱い展開だった。
一方、ストリンガーの方もエイヴォンを警察に売っていた。こちらもただでは死なないというわけだ。
しかし結果として組織のトップが再逮捕(今度は初犯ではないし、前回よりは長くくらうのではないか)、ナンバーツーが死亡してしまった。これで組織を維持することができるだろうか?
マルロやチーズといった新ライバルキャラも登場したし、今後は麻薬組織側の勢力も変化するのかもしれない。
ディーの死への疑惑
マクノルティがやっと動いた。
ディアンジェロ殺害事件を事件として調べ始め……たと思ったら、黒幕ストリンガーが死んでしまった。
なんたることか。
だが実行犯はまだ生きているはず。なんとか真実を明らかにしてほしい。
ハムステルダム
今回のもう一つのメイン。
この事件にモデルなどはあるのだろうか?
それとも現場で働く警察官の呟きが拾われた結果なのだろうか?
いずれにしても大胆すぎる企みだった。
もし自分がボルティモアの住人なら、この方法に対して少なくともありがたい気持ちにはなるだろう。
あれだけ町中で銃撃が日常化しているのなら、平穏な暮らしを望む気持ちはわかる。
住人の暮らしを本当に守りたい警察官が、それを最優先させたくなる気持ちもわかる。
感謝の手紙がたくさん届くのも理解できる。
ただ、法治国家であれをやったらルール違反だというのもわかる。
ルールを守ろうとすれば、現状ではハムステルダムはどうやっても成立しないのもわかる。
この問題、放送当時は議論になったのではなかろうか。
もし自分が当時のボルティモアに住んでおり、何らかの事情で引っ越しもできない場合、ハムステルダムを否定できただろうか?
わたしは法治が徹底されていない環境に置かれてしまったら、超法規的措置を望んでしまうかもしれない。
ハムステルダムを自分の目で見て、自分の足で歩いたトミーが今後どんな決断をしていくのか、S4に期待したい。
配信が楽しみである。