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S5を最後まで見た。ショックが大きい。
S4のラストでは猛烈にテンションが上がって原作を買い求めたが、S5のラストはしばし茫然としてしまった。
この記事タイトルがネタバレな気もするが、もはややぶれかぶれである。
以下ネタバレ。
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ネタバレの存在しない歴史ドラマ「ゲームオブスローンズ」(S3前半まで)感想 - なぜ面白いのか
スタニス・バラシオンの破滅
ここまでスタニスが玉座につくと予想していた人は少ないと思われる。
少なくとも視聴者から見てカリスマ性や魅力にあふれるキャラではなかった。
何をするにも迷い、なかなか決断も下せない。
しかも下す決断は大抵視聴者を失望させる。
カリスマ性という意味ならメリサンドルの方がまだ上である。
だから彼の戦いがどこかで挫折するという結末自体はそこまで意外ではなかった。
弟レンリーを殺した時点で、スタニスの将来はほぼ決まってしまったのだろう。
あの後はたとえ途中で悩んだりためらったりしたとしても、結局すべてなし崩し的にメリサンドルの指示に従って進んできた。
家族をすべて失い、兵からの信頼を失い、メリサンドルを失い、そして自分自身も死ぬという結末に向かって。
しかし。
しかし、である。
まさかここまで悲惨な結末になるとは。
鉄の玉座を目指して敵も身内も大勢犠牲にして、というだけならデナーリスだって変わらないのに。
バラシオン家滅亡のおしらせ
スタニスもシリーンも死んだことで、バラシオン家は公的には滅亡扱いになると思われる。
前にも書いた気がするが、王家が一代限りで滅亡なんてあの世界は波乱万丈すぎないか。
ジェンドリーが生きていれば再興の可能性はあるが、スタニスのところから逃げ出して以来再登場していない。
メリサンドルがその気になればジェンドリーを見つけ出せるかもしれないが、今後彼がストーリーの本筋に絡んでくるかどうかも不明である(今後も一切登場無しとは思えないが)。
……と、ここまで素で書いてしまったが、よく考えたらジョフリー、ミアセラ、トメンの三兄弟は公式にはバラシオン扱いなのだった。外見的にもストーリーの流れ上でもほとんどラニスターとしてしか見ていなかった。
とはいえ現時点でトメンしか生きていない上に、トメンが死ぬ前に子供を残せるかも不明だし(すでにできている可能性はある)、トメンにバラシオンの血が流れていないということが完全に公になる可能性もあるわけで、やはりバラシオン家は風前の灯であった。
大人になった玉ねぎの騎士と大人になれなかった少女
つらい。
もうこのタイトルを書いただけでつらい。
「ゲームオブスローンズ 玉ねぎ」で検索しただけで名前が出てくるダヴォスさん。彼は人気キャラの一人ではないかと思われる。ブラックウォーターの戦いで死亡フラグを回避した彼はしばらくは安泰だろうと思って見ていたわけだが、今回も彼は生き残った。「彼は」生き残った。
ダヴォスとシリーンの交流はこのドラマの中でも指折りの、心温まるシーンだった。
特にシリーンがダヴォスに文字を教えるようになってから、わたしは彼らのパートを心待ちにするようになった。
密輸業者だったダヴォスには、時流を読む力も武勇もあるが、学がない。
一方シリーンはほとんど城に幽閉された状態で、学はあるがそれを活かす機会がない。
シリーンの知がダヴォスに吸収され、ダヴォスは成長する。
ダヴォスがシリーンに会いに行く理由のひとつに、ブラックウォーターの戦いで失った息子への喪失感、罪悪感もあったのだろう。
ダヴォスの息子は彼に読み書きを学ぶよう言っていたらしい。しかしそれを拒み続けるうちに息子は死んでしまった。
ダヴォスはシリーンを大切にし、文字を学ぶことを通して、今は亡き息子と精神的な対話をしていたのだと思われる。シリーンに対して「息子が正しかった」と言うダヴォスの表情に悲壮感はないが、それでも今も読み書きを学びながら息子のことを思いだしていることがうかがえる。
またダヴォスは幼い少女から文字を習うことに対して(習うことを決めてからは)ほとんど抵抗を見せなかった。
彼は自分に学がないことを認めており、シリーンが自分にはない知を持っていることを認めており、自分にはない知を持つ者に対する敬意を持っている。
このブログで繰り返し書いていることだが、今のところ「ゲームオブスローンズ」において「無知の知」はおおむね生存フラグである。
自分に欠けているものを知り、学び続ける姿勢を見せたダヴォスは、さらにしばらく安泰であろう。
「王の手」としてカースル・ブラックに向かうダヴォスは、直前にシリーンを尋ねる。
ダヴォスが彼女に渡したのは鹿の木彫りだった。
バラシオンの象徴、牡鹿。
シリーンは、つがいになる牝鹿もほしがった。しかし彼女がそれを手にすることはなかった。
ここにバラシオン家の運命を見いだすのは難しいことではあるまい。
牡鹿の木彫りを渡したときのダヴォスの台詞はこうだ。
This is my own poor way of saying thank you for teaching me to be a grown up.
字幕では「それは感謝の印です。私を大人にしてくれた」と訳されていた(to be a grown up を「大人にして」と訳したのは素晴らしいと思う)。
今はこのシーンを見直すだけで泣けてくる。
これまでショックなシーンは多々あったものの、ここまで胸にくるシーンはこのドラマの中では初めてだ。
文字、すなわち知に至る道を獲得することで、ダヴォスはようやく「大人」になった。
息子の意見にも素直に耳を傾けることができるようになった。
過去を知り、他者を慮り、未来を想うことができるようになった。
シリーンのかわりに。
本当はシリーンもそうしたかっただろうに。
彼女が無事成人し、政治に携わることができればきっと良い統治者になっただろうに。
それらのすべての未来は灰になり、おそらくダヴォスは息子の未来とともにシリーンの未来をも背負うことになる。
彼はますます死ねないキャラになってしまった。
アガメムノン
もっといろいろ書きたいところなのだが、気力が尽きつつあるのを感じる。
S5についてはもう少し整理してからもっと語りたい。
最後に、スタニスのエピソードに似た神話を紹介しておく。
戦争の勝利のために子供を犠牲にするという話は探せば世界中にいろいろとありそうだが、とりあえずピンときたのがギリシア神話のアガメムノン。
アイスキュロスの悲劇三部作の一つの主人公だ。
彼は戦争の勝利のため、予言に従って娘を殺して出陣する。
結局、アガメムノンは戦争には勝つが、娘の死を忘れられなかった妻(とその情夫)によって殺される。
シリーンが殺されたとき、最初はスタニスもこのパターンかと思った。
が、スタニスの妻セリースはそれほど強くはなく、スタニスもまたそれほど強くなかった(というかボルトン強い……)。
ああ、つらい。
カースル・ブラックでダヴォスさんがシリーンのことを思いながら牝鹿の木彫りをせっせと作っているところを想像しただけでつらい。
彼が大切なものを何もかも失ったと知ったときのことを想像しただけでつらい。