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世界中のヘイトを一手に集める男「ハウスオブザドラゴン」2-2感想

https://twitter.com/HouseofDragon/status/1804897198729273346

今週もまた順調にかつ順当に、誰も望まない結末に向かっている「ハウスオブザドラゴン」。

今回は「ゲームオブスローンズ」を思わせる場面もちらほらあったりして、この戦争の先の先を知っている我々の心はボロボロである。クソっ、視聴者の心を弄んで食うメシは美味いか!?(美味いんだよなあ……)

マルちゃんは次シーズンが始まる前に早く「赤いドラゴン緑のタワー」みたいなコラボ商品を企画しろ! 間に合わなくなっても知らんぞー!

そういうわけで、ボロボロになりつつ今週も気づいたことを書いていくよ。

当然ながらネタバレ注意!

 

 

 

 

視聴者のヘイトを一手に集める男、クリストン

毎度毎度評価がうなぎ下がりのサー・クリストン。

自分にはどうすることもできない状況で、非常に少ない選択肢の中で、それでも事態を悪化させる方を選びがちな気の毒なやつ。

わたしの中では最初からずっとジョン・スノウ枠のつもりで見ていたのだけど、今週の描写でちょっとその評価を変えるべきかと考えた。

この人はなぜこうも視聴者のヘイトを一手に集める言動を続けるのか。原作のクリストンはこんなキャラじゃないよね? 原作のクリストンファンはどう思ってるんだろ?

製作側は何を考えて彼のキャラをこんなふうに造形したのか、むしろわたしはそこが気になる。何らかの意図があっての改変だと思うのだが。

今のわたしに考えられる意図はふたつ。

①クリストンの死の場面を盛り上げるため

ピーター・ベイリッシュが死んでわたしが連日泣きながら記事を連投していた頃、世界がどれほど盛り上がっていたか。推しが死んで世界中が歓声をあげていたときのわたしの気持ちわかる??? このブログで自分の解釈をなんとか他人に伝えられる形でまとめようと努力していなければ、世界中を呪って闇堕ちするところだったわ

思い出しただけで闇堕ちしそうだが、とにかくヘイトを集めるキャラが死ぬと視聴者はめちゃくちゃ盛り上がる。何か(ひょっとしたら原作とは違う形で)ものすごくインパクトのある死に場所が用意されているとか?

②世界中に手のひら返しさせるため

ヘイターにボロクソに言わせておいて、全員に手のひら返しさせるような見せ場が用意されているとか。これだったら面白いなあ。

1-5でジョフリーに殴りかかってからのクリストンは、意図的に本音が見えないような描き方になっている。意図がわからないからこそ、ただ場に流されているようにしか見えず、ヘイターにボロクソに言われてしまう。

ただ、エイゴンやエイモンドやオットーへの言葉を聞いていても、それほど深い意図があって何かをしているようにも(今のところは)見えず。手のひら返し、させてくれないかなあ。

 

今回印象に残ったのは、アリセントに「私の罪は赦されません」と言った後、食堂での彼の言動。

白いマントの汚れが、本来純白だったはずの自分の名誉に黒々とついた汚点のメタファーのように感じられたのだろう(英語でも spot は汚点の意味で使われる)。だからこそ、あえて「白いマントは高潔と貞節の証」だと口にする。誰よりも自分自身が「お前が言うな」と思っていたに違いない。

「なぜこうなってしまったのか。今からでも正せるものなら正したい。なのにお前は何だ。今からでもそのマントの汚点はそそげるのに、なぜすぐにそうしないのか」みたいな感情がどろどろに煮詰まって出てきた言葉だったのかなあ。

――と思いながら見ていたのだが。

あのときのクリストンは最初からアリックを探して食堂に来たんだね? うまい手を思いついちゃったから、伝えに来たんだね? で、探して見つけてみたら「汚点」が目に入ってしまったので、つい言っちゃったって感じだったのかな。

彼は彼なりに、戦争を拡大しない方法を考えようとしていたんだな。民が戦火に巻き込まれないやり方を。

でもこんなにリスキーでうまくいくとは思えない方法を、周囲に相談なく決行させたのはどう考えてもまずい。

たとえレイニラが死んだとしても、最初の汚点が消えることはないんだよクリストン……。自覚しているかどうかわからないけど、自分が「今の自分」になってしまった「元凶」であるところのレイニラを消すことが、「マントを白くする=自分の名誉を守る」ことと結びついてしまっているんだろうな。アリックに「今すぐマントをきれいにしろ」と言ったのと同様に、「今すぐマントを白くしたい」からこその独断専行だったんだろう。本当にかわいそうにな……。

――と思っていたら最後、自分からアリセントの寝室で装備を解いて待機してんの!!!?!? 「彼には選択肢がない」という言い訳すら立たないじゃないの? だめでしょこれ!? 何してんの!? グーで殴られろ!

このシーン、見事にアリセントの瞳には光が落ちるようになっていて、クリストンの方は目から光が消えている。ふたりの場所が入れ替わっても、ちゃんとそういうライティングで撮っている。

なんだろこれ、どう解釈すればいいんだろ? もう汚点まみれキャラでいくってこと!? 何を考えていたのか、死ぬまでにどこかで本音を語ってくれ、頼む!!!

 

 

舞い散る「雪」

今回、ヘレイナが見上げる空に、そしてレイニラが見つめる窓に、「雪」のようなものが舞い散るシーンが対比されていた。

実際には雪ではなく、ヘレイナの方は群衆が撒いた葉だろうか? それが彼女の方に落ちてきた。レイニラの方は光が差す中で見えた埃だろうか?

両シーンともに、わたしは「ゲームオブスローンズ」2-10のデナーリスのシーンを思い出した。焼け落ちたレッドキープの中心、降り積もる雪の中にたたずむ鉄の玉座の幻視。実際にはあれも雪ではなく、デナーリス自身が町を焼いた結果降り積もった灰だと、8-5で判明する。2-10の時点でまったく体温で解けない雪を見て、もうちょっと本物の雪っぽいものを用意できなかったのかと思ったものだけど、解けないのが正解だったなんてな。

もしかしたらヘレイナも、あの場で未来のキングスランディングに降り積もる灰を視ていたのかな、なんて。

やっぱりあの両シーンは、未来のキングスランディングの示唆かなあ。ターガリエンが相争う結果、ドラゴンは滅び、やがて血筋も絶える、その避けられない結末を思わせるシーンだった。

 

 

母子の関係の断絶

今回きついなあと思ったのは、エイゴンもエイモンドもヘレイナも、ジェヘアリーズの死にショックを受けて悲しんでいるのに、その悲しみをアリセントと共有できていない点だ。

エイゴンはおよそ子供を独立したひとつの人格と認められるようなタイプには見えず、せいぜい自分の分身兼跡継ぎのようにしか思っていなさそうだったが、だからこそ「自分の所有物」を失ったことを心底悲しんだ(まあこの作品に子供を独立したひとつの人格と認められる親がひとりでも出てきたことあったか? という話なんだが……)。

だが彼はその悲しみをアリセントと共有できないし、アリセントもエイゴンの悲しみに寄り添おうとしない。今のアリセントにとってエイゴンは愛すべき息子であると同時に、政治的には国家の存続を危ぶませるレベルの厄介な愚王だ。

エイモンドは率直に申し上げて……相当なマザコンなんだろうな。あの娼婦はアリセントと同世代かもうちょっと年上だろうか。そしてアリセントと同じブルネットのゆるウェーブ。膝枕してもらって頭を撫でてもらって……子供が母親にやってもらうようなことを娼婦にねだっている。そして自分の誇らしさと後悔を語る。

(長い髪を耳にかけながら横になるシーンの異様な色気よ……。仕草はすごく女性的なのに、高身長で体格はごつごつしてるしあばら骨は浮いてるし、人外っぽさがすごかった)

それをアリセントにはねだれない。本来はどれも、アリセントに言うべき言葉だった。彼女の前でルークに対する後悔を語っていれば、アリセントからエイモンドへの印象も変わっただろうに。

でもエイモンドにとってアリセントは、そんな本音を漏らせる相手ではない。

エイゴンもエイモンドもアリセントにちゃんと愛されていたと思うのだけど、彼らが小さい頃、アリセントはヴィセーリスの介護に追われていたし、レッドキープの政争の中で孤軍奮闘していたしなあ。そして父親はレイニラのことしか見ていなかったしなあ。

今の彼らは、政争の場で強い発言力を持たない母親のことを尊敬できていない。アリセントは子供たちを死なせないためにあらゆる手で守ってきたのになあ。

アリセントは他者の痛みがわかる人で、ヴィセーリスの孤独もレイニラの抱えた矛盾や苦しみもわかっていて、それに苦悩し続けてきた。でもその力が、子供たちには発揮されていない。ひとつには、子供たちの「ひとりにしてほしい」「放っておいてほしい」という感情が読み取れるからこそ、無理な介入を避け続けて今に至っているのかもしれないけど。

ただやっぱり今の彼女を見ていると、結局アリセントも自分の子供は自分の分身であり自分の所有物だと考える親なのかなあと思ったりもする。

レイニラがルークの死をジェイスととともに悲しんだのと実に対照的だった。どちらかというとあれくらいの年齢の子供は、自分が母親の不倫(しかも継続的な)によってできた子供だと気づいたら母親を嫌悪しそうなのだけど、そういうターンはもう過ぎたのかな。

とはいえ、そんなレイニラもデイモンとは悲しみを共有どころかああいう感じになっちゃったわけで。どいつもこいつも人間関係がうまくいっておりませんなあ。

 

 

アリックとエリック

今週の最もかわいそうで賞はこのおふたり(もらいたくない賞だな!)。

何なんだよこの兄弟萌え同人誌55000冊分くらいの破壊力は!!!!!! アリエリ同人誌1000000冊発行されろ!!!!!!!!! いやどんだけ発行されてもこのふたりの結末は変えられないんだわ!!!!!!! こんなことが許されるのかよ!!!!!(壁に頭を打ちつける絵文字)

それぞれの信念は曲げられなかったけど、互いへの愛も曲げられなかったんだな。

ふたりの結末を見たレイニラの表情がまた……。

愛し合うふたりが泣きながら殺し合う、そこに自分とアリセントを重ねてないはずがないんだよ。

ふたりは born together ではないけれど、それでもあんなに仲がよかったのに。今でも互いに殺し合いたくはないと思っているはずなのに。さまざまな状況が、全面戦争を不可避なものにしていく。

そしてこのような悲劇がこれで最後ではないことを、レイニラはわかっている。

 

 

ラリスくんはどこまで事態を把握しているのか

さて今回は出番が少なかったラリスくん。

ジェヘアリーズ暗殺に金マントがかかわっていることはサクっと発見したが、実行犯は結局特定できず、城のネズミとり全員を処刑する事態を招いてしまった。

さてどこまでが彼の意図だったのか。彼はどこまで事態を把握しているのか。

前回ラリスくんは、エイゴンがオットーと反目するよう誘導した。結果としてエイゴンはオットーの意に反した行動をとるようになり、オットーは王の手をはずされた。

ラリスくんは次の王の手を狙っていたのだろうか? さすがにそこまで一足飛びにうまくいくとは思っていなかっただろう。ラリスくんの父親はもと王の手ではあるが、今のラリスくんはただの諜報大臣であり、小評議会における発言力もまだ大きくはないように見える。「まだ」であろうとわたしも思っていたし、ラリスくんも思っていただろう。

しかしクリストンが王の手になるというのは、ラリスくんの意図した部分だっただろうか? 誰が次の王の手になったとしてもオットーより事態を悪くするであろうことは読めていただろうが、それにしてもそうなると読めていたかどうか。いや、クリストンがエイゴンとひそひそ相談して「いい作戦思いついちゃったんすよ」とか言ってることくらい、諜報大臣の耳に入っていてもおかしくないか。やっぱり読めていたかもしれない。

ラリスくん、何が目的なんだろうなあ。いっそピーター・ベイリッシュのように Chaos is a ladder みたいなスピーチをしてくれたらわかりやすいのだけど。

もしラリスくんもピーターくんのように乱世をこそ求めているというのなら、ひみつのつうろで警備がガバガバなのをスルーしていたのも意図的、ネズミとりの中にやべーやつがいるのをスルーしていたのも意図的、どのネズミとりが実行犯なのかしらんぷりして全員処刑させ、王家の評判を下げるのも意図的だったことになり、非常に面白いのだが。

ラリスくんはミサリアのことをどこまで把握しているのか。諜報大臣としては、エイモンドが通っている娼館くらいは把握していてほしいところ。あの娼婦がエイモンドのセリフに対してちょいちょい意味深な表情をするのも気になっている。

でもラリスくんは、ピーターくんほど明確に「スタークと身分制度と世界のすべてに対する復讐」みたいな意図は見えないんだよね。そこまで深堀りして語られていないだけなんだけど。何を望んで何を目指しているのかなあ。

 

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