先日 Entertainment Weekly さんのエイダン・ギレンインタビュー記事を訳してみたが、やっぱり Los Angeles Times さんの方のインタビューも訳してみることにした。内容は一部重複するが、こっちでしか言ってないことも結構あるし!
例によって、訳すにあたり正確さは月の扉から全力でぶん投げてきたので、ちゃんと読みたい方は原文にあたるべし。
Aidan Gillen talks about that Littlefinger moment on 'Game of Thrones' - LA Times
元記事は2017年8月28日のもの。
最初から最後までネタバレまみれにつき注意。
日曜の夜、「ゲームオブスローンズ」ファンたちは、とあるメジャープレイヤーに別れを告げた。ある者は喜び、またある者は嘆いた。その中心人物と、我々は話をした。その名もエイダン・ギレン、あるいはロード・ピーター・ベイリッシュ、あの世界ではリトルフィンガーとして知られる者である。
7シーズンにわたって世を欺いてきたギレンに、リトルフィンガーとしての最後の瞬間を思い出してもらうことにした。UKの南海岸沿いの「オンボロホテル」からの電話インタビューである。実は彼はシーズン最終回を見ていなかった。ストリーミング再生しようとしたところ、悲しいかなホテルのWi-Fiが「使えなかった」のである。そのためアイスドラゴンによる大虐殺のシーンを追うことはできなかったらしい。
とはいえ、「僕は自分が死ぬところを特に見たいとは思わないんだけど」とギレンは説明した。「もういっぱい見たし、ここ何度か見たときはあの出来事についてはクリアにしておこうと思ってたしね」
彼があの処刑シーンを目の当たりにする準備ができていなかったというのが本当なら、ウィンターフェルとウェスタロスでの自分の最後の瞬間について話すのは楽しかったというのも本当だろうか。演じるキャラクターと同様、ギレンは隠し事の上手い人物だ。
自分のキャラクターが死ぬことになると知ったのはいつですか?
今シーズンの撮影に入る一月前くらいだった。台本が届くちょっと前。それが普通だよ。普段は電話なんてないのに、かかってくるんだ。(D. B. ワイスとデイヴィッド・ベニオフの)二人からの電話だった。ほかのみんなが死んだときと同じだね。僕が死んだのは、撮影前半のことだった。先に死んでおいたから――こんな言い方って変な感じだけど――、ちょっと解放的な気分だったよ。
どう感じましたか?
当然こうなると思ってたよ。もし今シーズンでなければ次のシーズンで死ぬだろうって。いつそうなるかは大して問題じゃなかった。ふさわしい最期になってさえいればね。エピソード2で死ぬよりは最終回の方がいいかな。
製作総指揮の二人は、あなたがあのシナリオに対してどんな演技を見せるかわくわくしていたそうです。このキャラは起こりうる可能性をすべて想定していて、自分の死だけが例外でしたからね。あなたはリトルフィンガーの驚きについてどう考えましたか?
面白かったよ、この人は自分の死がありえることだと思うこともないくらい自信たっぷりだったから。自分の計画があんなふうに失敗するなんてありえないと思うくらい、自信たっぷりだったもの。でも同時に、ゲームは終わったと即座に理解できるくらい賢いんだよね。
ゲームの終わりは即、衆人環視のもとでの凄まじい辱めになる。彼のこれまでの旅路のすべては、屈辱からの逃避だった。今シーズンで我々が見たものではなくて、リトルフィンガーが若い頃に受けた屈辱のことだよ。本当に彼にふさわしい、ぴったりの最期だった。しかもその死は、彼にとって身近になった者がもたらしたんだから……
リトルフィンガーのこれまでの行動の動機のおおもとに、ブランドンとの決闘とキャトリンとの別れがあるのは明らかだったが、すべてを「屈辱からの逃避」と表現されるとそれはそれでなるほどという気もしてくる。
金と権力を手に入れて、力のない少年だった自分とは違うものになろうとしながら、やはり彼の中にはずっとあの日の記憶が癒えない傷になって残っていたのか。
展開がすごく速かったようですね。台本を受け取ったとき、精神的な抵抗はありましたか? 自分の死に対して、役者としてどんなふうに準備をしましたか?
実際、早く終わったね。本編中での時間もすごく短い。
だから僕は、自分の人生が突然スローモーションになって、たくさんの人の前で計算に取り組まなくてはならなくなったときの思考プロセスを詰め込もうとした。あの部屋にはたくさんの人がいたよ。役者もたくさん。とりわけ三人のスターク姉弟だね。僕は彼らを見て、自分が怖がっている状態になれるようにした。
撮影に入る前にはもう、僕はあの状況をすべて確実に受け入れていた。役者としても、僕個人の経験としてもね。この二つはまったく同じものになったんだ、本当に。あれは本当に怖かった。みんながあの場で人間の本質的な脆さを目撃できたことが重要なんだって、僕は思ってる。ここでいう「人間」とは、リトルフィンガーのような賢い人さえ含むんだよ。彼は道を見出すことができなかった。罠にかかったネズミのようにね。
あの辱めは凄まじいものでなくてはならなかった。それに彼の旅路のスタート地点で起こったことと同じものにならなくてはならなかった。本当にふさわしい最期だったよ。彼はまたあの場に立たされて、また同じことをしたんだ。自分に対して、同じことをね。
「リトルフィンガー」が怖がっているのを感じて、ギレンさん自身までがあの撮影のことを「怖かった」と感じているのがすごい。
そしてリトルフィンガーにとって、死そのものよりもその前、大勢の前で辱められたことの方がはるかに重大な問題だったことがこの話全体から察せられる。それが過去の記憶と一致しているところが、ギレンさんいわく「ふさわしい最期」ということなのだろう。
彼にとってあの場面で最大の辱めとは何だったのだろう。嘘を暴かれたこと? ずっと育ててきたつもりだった少女に言い負かされたこと? 自分についてきたはずの兵にすら助けの手を差し伸べてもらえなかったこと? 跪いて助けを求めたこと? 声を奪われたこと?
現時点でのわたしの印象としては、サンサに言い負かされたことと、自分の唯一の武器だった声を奪われたことかなあ、と思っている。
ファンが積極的に死を望むようなキャラを演じるのはどんな感じでしたか?
面白いね。どれくらいの人が僕に死んでほしいと思ってるの?
ええと……ベイリッシュに当然の報いを受けてもらいたがっている人もいます。あなたはロスを殺したし、ネッドを殺させましたよね。
うん、わかってるよ。彼は罰を受けて当然だ。あれをぬるいって思った人もいるんじゃないかな。僕はもっと酷いめにあうべきだって。
僕は演じるにあたって古典的な悪役にならないようにしていたけど、それでもあのキャラは古典的な悪役だ。あのゲームのエピソードは、視聴者が僕が死ぬのを見て楽しむためのものだ。だから視聴者がそういうものを求めているのなら、僕らはきっと正しくそれをやれているよね。そういうふうに理解してるよ。視聴者の言葉が僕個人に向けられてるとは思ってない。
あっわたしぬるいって思った人でした……。さくっと死ぬのではなくて、投獄されてしばらくは生かされているものだと。
とはいえ製作側はS7の最終回を締めるエピソードに仕立てたかったのだろうから、アリアにさくっと始末させるのも悪くはなかったかなとも思う。
ジョンが帰ってきたら、ブランはいるしアリアはいるし、ピーターは死んでるし、勢力が変わりすぎててびっくりではなかろうか。ブライエニーに現状報告されてるかな。
リトルフィンガーには満たされるつもりがあったと思いますか? もし彼が鉄の玉座を手に入れたら、彼は幸せになれたと思いますか?
たぶんなれないね。彼は過程に満足するタイプだと思うから、それは変な質問だよね。彼は自分のたどってきた道筋にこそ満足して、彼のしたことに見合った成功を得た。僕は彼のことを、満たされていない人物だと思ったことはないよ。彼は自己満足できるタイプで、それが致命的なレベルなんだ。彼は目標が達成できたら終わりっていう人じゃないよ。きっとね。
でもこの終わりは避けられなかった。そういうものなんだ。10年前に起こってもおかしくなかったし、20年後だったかもしれない。でも彼が暴力によって命を落とすのは定められていた運命だった。
この質問をはさんでくれたLAタイムズさんにはどれだけお礼を言っても言い足りない。リトルフィンガーに対してぶつけたい最高の質問だと思う。そしてギレンさんの答えも最高だと思う。
わたしは「鉄の玉座がリトルフィンガーの最終目標だとは思えない」とずっと思っていた。だから何かもっと世界の根本にかかわることを目標にしているのかも? と考えたこともあったわけだが、ギレンさんの解釈はこうだったのか。
「どれだけ手に入れても満たされない悪役」ならいくらでもいるが、「過程に満足するタイプ」かつ「自己満足できるタイプ」の悪役かー。自分の歩んできた道のおかげで常に満たされてはいるけれど、手に入れたものによって幸せになることはできないということだろうか。
「点ではなく線で思考するタイプ」とも言えるのかもしれない。というか、彼の行動を見るとまさに「点ではなく線(むしろ面)」で事態を把握していたように見えるので、自己認識もそういうものになっていたのかもしれない。
その「自己満足」が「致命的」な結果を生んだのは、皮肉だがうまくできている。
デイヴィッド・ベニオフはベイリッシュをソシオパスだと呼んでいました。それは適切な表現だと思いますか?
その言葉だけでは十分でない気がする。そうじゃないかな?
ベイリッシュは心の底では本当にサンサのことを気にかけていたとも言っていました。彼がどんな形で彼女をかまっていたかはともかくとして。あれは嘘泣きだったんですか? それとも彼の本当の涙だった?
僕はベイリッシュの涙が嘘だったとは思わない。ベイリッシュは涙を流すのが好きだとも思ってない。人前でならなおさらね。今シーズンを通して、僕はこれまでのシーズンにはなかった何かを見せようと努めた。温かさとか、より人間的な一面とか、あるいは冷たさとか。でもこれまで彼には見られなかったものといえば、やっぱり脆さや弱さだね。
もしみんながあのときの彼に何らかの感情を見出したとしても、それは感傷的なものではないと思うんだ。あのときの彼の感情は、不本意なものだった。「自分に与えられた時間が終わってしまった」と思っていたんだからね。
僕があのときあの場面で感じていたのはこういうことだよ。本当はこの気持ちを分析も説明もしたくないんだ。キャラに最後に一動きさせて、それを見て少しでも気持ちをやわらげたり、すべてを考えなおさせたりしたいわけでしょう。
このブログで散々リトルフィンガーの恋愛観に対して懐疑的だったわたしがS7に入ってから「やっぱりサンサへの気持ちは本物なのかもしれない」と手の平を返し始めたのは、まさに彼の表情の変化ゆえだった。
サンサを見つめる視線がそれまでよりも温かくて、雪景色に佇む黒い影は儚げで。
やっぱりギレンさんはS7に入ってから何かを足していたのか。もちろんギレンさんだけでなく、脚本も、あとカメラさんも、S7のリトルフィンガーには何かを足そうとしていたと思う。
あなたの最期の言葉は何だったのでしょうか? 「私は……」と言ってから亡くなりましたよね。
それは言えないよ。役者にはキャラクターを解釈する責任と、それを自分だけのものにしておく責任がある。キャラクターの尊厳と秘密を守らなくちゃいけないんだ。こういう細かすぎる話だけではなくてね。
議論されすぎなもの、特に「ゲームオブスローンズ」ほど議論されすぎな番組は、減っていくものだと思うよ。このキャラクターとしての僕の仕事は、しばらくこの手の質問を避け続けることだろうね。確かにいい質問だと思うよ。でもリトルフィンガーは諸々の秘密を墓まで持っていった。僕もそうするつもりだよ。まあ、僕が墓に入るのはもうちょっと先がいいけどね。
ですよねー。
こちらでも書いたとおり、わたしは "I love you" だと思ったけれど、彼が謎を謎のままにして逝ってくれたことがとても嬉しかったから。
「ゲームオブスローンズ」を離れて寂しくなると思いますか?
なるなる、きっとそうなるよ。でも解放された気分でもあるんだ。変な感じだけど、いいものだよ。楽しい時間だったし、長い時間だった。何十か月もやってたんだからね。
この役に入ってすぐの頃、ベルファストで目覚めたときのことをはっきり覚えてるよ。映画祭をやっているときで、僕はホテルの窓から町を眺めてた。この場所が、この先何年かの住まいになるのかなって考えながらね。それがどれくらい続くのか当時はわからなかったけど。
でも一つの冒険が始まるんだ、僕は特別な何かの一部になっていくんだっていう感覚はあった。番組が特別な何かになることを僕は願っていたし、そうなるはずだっていう強い予感もあった。
そして今でもそう思ってる。
ベルファストのホテルでの目覚めのくだりがとても詩的で好きだ。
「ゲームオブスローンズ」が世界中で注目される特別な作品になった背景には、ギレンさんの貢献も少なくないはず。
そしてギレンさんにとっても「ゲームオブスローンズ」とリトルフィンガーが特別なものであってくれたら、ギレンさんのファンでありリトルフィンガーのファンでもあるわたしはとても嬉しい。
【おまけ】
「ゲームオブスローンズ」でエイダン・ギレンファンになった人へのおすすめはいろいろあるが、とりあえずhuluにある「The Wire」はいかがだろうか。GoT過去シリーズをhuluでまとめて見た人ならそのまま移行しやすいかと。
ギレンさんの登場はS3からだが、登場人物が膨大なのでS1から見た方がわかりやすい。ギレンさんはボルティモアの若手政治家役。これを見た人がリトルフィンガーへの起用を決めたんだろうなと思わせてくれること間違いなし。
ネタバレなし感想はこちらから。
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もう一つはインタビュー翻訳1の方でも触れた映画「キングアーサー」。こちらでは弓の名手を演じている。かっこいいんだこれが。2017年公開の映画なので日本ではDVD化もまだなのだが、レンタルなどが始まったらぜひどうぞ。
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